1 死神の少女
日が落ちて間もない都心のビジネス街の只中、空に次々と突き刺さっているかのようなビルの屋上には星が見えない。雲がかかっているという事もあるが、そもそも透き通るような空気がではない。代わりに、眼下に広がるほとんど全てが舗装された地上には、行き交う車のライトが無限の流れ星、もしくは光の川のように流れ続けている。そこにはその光を倍する人々が存在しているはずであったが、遥かなる孤高の空のここまではその声は届く事はない。
「もう逃げ場はない‥‥そろそろ終わりにしたら?」
少女の声がその薄暗い空間に響き渡る。
顔はまだ幼さが残っており、高校生ぐらいだろうか。背はそれほど高くはない。長い黒髪を金色の櫛のような髪留めで頭の両脇でまとめており、耳の脇から垂れさがる髪の房は片側だけが長い。刺繍の入った白色の幅広の袖の着物と赤色の腰帯が特徴的ではあるが、それ以上に彼女の持つ大きな鎌が目に付く。黒の持ち手は金属の光沢を放ち、その長さからかなりの重量がある事が分かる。その先についている巨大すぎる刃は、地上の光を受けてゆらゆらと冷たい光を放っていた。
「‥‥‥政府のいぬが‥‥」
彼女が対しているのは、どこにでもいるスーツを着たサラリーマン。彼はその彼女に対して罵りの言葉を呟く。
「見ろ、この世界を! こんな作られた偽りの世界はあってはならない!」
「‥‥‥‥」
「人はどんな環境でも現実に向き合って生きていくべきだ! こんなものはただの逃げでしかない!」
「‥‥‥‥それで?」
少女は何の感心も無い抑揚のない声で返す。
「それで、あなた達、テロリストはこの世界が気に入らないから潰したいと‥‥随分と勝手な言い分ね」
鎌を持ち直すと、角度が代わり、刃の光が男の顔に当たった。
「ここは、人間が作ったユートピア。最も豊かで、幸せだった時代の復元‥‥例えそれがコンピューター上の仮想世界であってもそれは変わらない。そしてそこに住むたくさんの人々がいる。もちろん、賛同してるから接続を許可されてるんだけどね」
「そんなものは意識だけだ! 現実の体はただ横になって眠っているだけ! それで生きているとは言えない!」
男は懐から拳銃を取り出して少女に向けた。




