第1話 子持ちシシャモ 5/6
「ありがとうございましたー」
店員の声を背で受けて、スーパーを出た。
結局今日は大した量を買わなかったなー。
ネギ、半額、98円。
絹豆腐、定価、80円。
小松菜、定価、100円。
焼酎ハイボール350ミリリットル、定価、110円が2本。
まぁこのあたりはいつも通り、好きなもの、安いものを買ったって感じね。
珠美の晩酌の常連ともいえる食材とともに、本日お店から連れ出したのが、子持ちシシャモ、半額、200円。
こいつだ。
ハッキリ言ってお荷物だ。
300円晩酌という縛りにおいてはコスパが悪すぎる。
ていうか半額でこれか。
結構高いな、シシャモ。
青いエコバッグの中で、食材と酒が揺れている。
コスパが悪いとはいえ、買うという判断を下した以上はぼやくよりも美味しく頂かなくてはならない。
ま、焼けば旨いんだけどね。
エコバッグに入れたほかの食材をどう組み立てるか、考えながら歩いていると自宅についた。
9階建てマンションの6階に自室がある。
エレベーターに向かう前に、郵便ボックスに立ち寄り、中のものを手に取った。
中古マンションや新築マンションのチラシ、そういう「いつも見るもの」に加えて、黄色い細長い紙が入っていた。
不在票だ。
なんだろう……
書かれている番号の宅配ボックスを開けると、箱がひとつ入っていた。
宅配便の伝票を見る。
「野沢じゃん」
声に出たのは高校の同級生の名前だ。
大学進学、就職、その後も連絡を取り合っていた仲だ。
箱のかたち、大きさ、重さから、すぐにわかった。ワインだった。
30目前にして、別に嬉しくもない誕生日を狙って送ってきやがって……
口元が緩んでいるのを自覚したまま、エレベーターに乗った。
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6階の自室の鍵を開け、靴を脱ぐ。
買ってきたものはいったんシンク横の作業台に置いて、着替え始めた。
部屋着は上下セットのスウェット。それに着替えて、いったんソファに座ってテレビをつけ、それを見るでもなく、スマートフォンを手に取った。
『ありがとねー、受け取ったよ。嫌がらせか?』
野沢にお礼のメッセージを送って、いよいよ晩ごはんの、いや、晩酌の準備に取り掛かる。
手の込んだものを作るわけではなかったし、作り置きもあったので、ものの15分で完成した。
【300円晩酌】
子持ちシシャモ、2尾50円
半熟煮卵、2個60円
冷奴にネギショウガめんつゆ、30円
小松菜オイスターソース炒め、40円
焼酎ハイボール1本、110円合計290円
まぁ、ちょっと塩分が気になるけど、まぁこんなもんでしょ。
調味料は大雑把に計算することにしているから誤差は多少出るとしても、準備から楽しめる300円晩酌の完成だった。
こういう遊びを考えてから痛感するようになったのは、卵の有能さだ。
値上がりしたと言っても、セール日を把握していれば1パック180円から250円で買うことができる。
茹でて調味液につけておくだけで翌日から食べられるのだから、優秀なアテと言うほかない。
それを潰してマヨネーズと和えればトーストにも合う和風卵ソースが出来上がる。
調味液はだいたいめんつゆで済ませるが、それを50円と計算しても、1パック250円でまとめて作れば、煮卵1個が30円でできる計算。
「いただきまーす」
手を合わせ、言い終えたタイミングで、スマートフォンが鳴った。
野沢からのメッセージだった。
『いいワイン選んだから、彼氏とふたりで飲んでね(笑)』
『死ね(笑)』
「さーて、どれから食べよかなー」




