第2話:【後編】デートの邪魔をするゴミ(王子)は、爆炎で焼き払うに限る
突如として開かれたボス部屋の扉。
中から這い出してきたのは、第二階層の主――無数の鋭い足を持つ『ブレード・センチピード(刃ムカデ)』だった。
体長は十メートルを超え、その外殻は鋼鉄よりも硬い。
「ギギギギギッ!!」
不快な金属音を響かせ、巨大なムカデが突進してくる。
アルトリアは一歩前に出て、大剣を正眼に構えた。
「マリエル、下がっていろ。ここは私が――」
「いいえ、アル様」
マリエルが、アルトリアの背中にそっと手を添えた。
その指先から、熱い魔力がアルトリアの鎧を通じて流れ込んでくる。
「私が求めていたのは、私の全力をぶつけられる『壁』です。アル様、貴女なら私の爆炎を背中で受けても……微動だにしないでしょう?」
マリエルの瞳は、もはやお嬢様のそれではない。
狂気すら孕んだ、純粋な破壊者の色だ。
「……ふっ。面白い。ならばやってみろ、マリエル。お前の火力を、私という盾が証明してやる!」
アルトリアは不敵に笑い、地面を蹴った。
ムカデの鋭い足が雨あられと降り注ぐが、アルトリアは最小限の動きでそれらを受け流し、あるいは大剣の腹で弾き返す。
「今だ、撃てッ!!」
「――終焉の劫火!!」
マリエルの杖から放たれたのは、第二階層のキャパシティを越えるほどの巨大な火球だった。
轟音と共に、ボス部屋全体が真っ白な炎に包まれる。
通常の騎士なら、この余波だけで炭化していただろう。
だが。
炎の渦の真ん中で、アルトリアは悠然と立っていた。
背中から受ける爆風を、強靭な広背筋と魔力耐性の高いフルプレートで受け止め、彼女はただ一言。
「……いい火力だ。少し、背中が温かくて心地よいな」
その言葉は、マリエルの心に爆炎以上の衝撃を与えた。
自分が全力で放った破壊の魔法を、まるで「日向ぼっこ」のように受け入れる存在。
マリエルは確信した。これこそが、私の求める究極のパートナー(前衛)なのだと。
一方、ダンジョンの意志(?)は完全に狂喜乱舞していた。
『――判定:マーベラス・コンビネーション! 焼く女と耐える女! これぞ、これぞ美の爆発ですわッ!!』
ハープの音がもはやロックギターのような激しい旋律に変わり、壁から次々と「お宝」が射出される。
『美神の耐熱グリス』
『爆炎用ファンデーション(崩れない)』
『二人用、勝利のシャンパン(ノンアルコール)』
「……なんだか、このダンジョン、テンションが高すぎないか?」
アルトリアが首を傾げていると、マリエルがその腕に抱きついた。
「アル様! もう離しませんわ! 王宮も王子も、あんな『低火力のゴミ』はどうでもいいのです! 今日から私は、貴女の専属魔導師として、この命を捧げます!」
「お、おい、マリエル。私はもう副団長でもなんでもないんだぞ?」
「関係ありません! 私の『ジゴロ 力』測定器が、アル様こそが真の王であると告げているのですわ!」
「……よく分からんが、お前がいてくれるなら心強い。よろしく頼む、マリエル」
アルトリアがマリエルの頭をポンポンと叩く。
その無自覚なジゴロ仕草に、マリエルは幸せそうに目を細めるのだった。
◇
その頃。王都の王立騎士団演習場。
カイル王子は、ピカピカに磨かれた剣(一度も実戦で使ったことがない)を手に、騎士たちを叱り飛ばしていた。
「なんなんだ、この体たらくは! アルトリアがいなくなってからというもの、騎士団の士気が下がっているじゃないか!」
当然である。
アルトリアという「最強の盾」がいなくなったことで、今まで彼女が一人で引き受けていた過酷な任務や訓練が、全て他の騎士たちに回ってきたからだ。
さらに、カイル王子が「僕の美学に合わない」という理由で、実用的な装備を廃止し、見た目重視のヒラヒラした制服に変えさせたことも大きい。
「殿下……。マリエル様が行方不明との報告が」
側近の報告に、カイルは鼻で笑った。
「フン、どうせ僕に冷たくされたショックで、どこかの修道院にでも引き籠もったのだろう。……構わん、放っておけ。僕には次がある。聖女レベッカだ。彼女なら、マリエルのような粗暴な爆炎娘とは違い、僕を優しく癒やしてくれる」
カイルは、自信満々に手鏡を覗き込む。
だが、彼は気づいていない。
聖女レベッカが、今まさに「アルトリアの筋肉」を求めて、王都中のプロテインを買い占めているという事実を。
『○月△日。
マリエルが消えたが、これは僕との恋の駆け引きに違いない。
追いかけたら負けだ。僕は王者の余裕を見せつつ、レベッカを口説き落とすことにする。
……それにしても、最近、なぜか僕の周りから女性がいなくなっているような気がするが……気のせいだろう。僕の輝きが強すぎて、みんな恥ずかしくて隠れているだけなのだ。フハハハハ!』
王子の勘違いは、もはや神の領域に達していた。
一方、ダンジョン深層では。
「アル様、次はどの魔物を焼きますか? あ、あそこのオーガなんて、いい感じに霜降りが乗っていそうですよ?」
「いいな。焼いてから、ダンジョンからもらった『美神の焼肉のタレ』を試してみよう」
史上最強の女二人旅は、コメディと熱気を孕みながら、さらなる深部へと突き進んでいく。




