15.状況整理と保守部屋制圧
望んではいないけど頼まれた以上は仕方が無く、私は一分前から一日指揮官を拝命中である。
まあやると決めたからにはきちんとやるとしますかね。
「とりあえず全員物音立てないで静かにしておいてください。穴の下ですけど上で騒ぐたびにこちらに近づいているような気がします。下の化け物の動きが止まるかそれとも動きが戻るか等確認したいので。話したいときは小声でお願いします。」
周りが完全に静かになり同意が返されると続けて指示を飛ばしていく。
「サカキさんは今からエスケープしてコミュニティールームへ戻ってください。先ほどモノジーさん達が集団自殺をやっていたので下手したらシマムラさんの復帰時間がかぶっちゃいます。なので説明をして少しずらしてからワールドログインをするように、そして見つからないよう動くように説明をお願いします。」
「だったら一度全員戻ればいいんじゃないか?ゲームのプレイ時間だって勿体ないし。」
ブラックさんの指摘も間違ってはいないけどここは時間を犠牲にして確実性を取らせてもらう事にする。
「全員で行動するとやっぱり目立ちますからね。外を歩く人数は少ない方がいいと思います。後はここで下の様子に聞き耳立てておく人はいりますからね。結局一人だけ時間を食うくらいなら全員付き合ってもらいます。ではサカキさんシマムラさんのお迎えをお願いします。」
そう言うとサカキさんはコンソール操作してエスケープしていく。
残った人たちは十分ぐらい待たせる事になるけど…仕方ないと思ってあきらめてほしい。
そして待つ事およそ二十分ぐらい経過してサカキさんとシマムラさんはガチャリと扉を開けて戻って来た。
「すまんすまん、待たせちゃったみたいで。」
「俺らが戻って来た時はモノジーの奴、今度は順に飛び込んでいってたぞ。何がしたいかは理解できなかったが…。」
私も理解できないし理解したくないね。
それよりもせっかく戻ったのだから先ほどの情報提供をしてもらおうかな。
「では小声での会話をお願いします。下で何があったか説明をお願いします。」
「あぁ、サカキから聞いたぜ。何と言うか大変だよなあんたも。…って下の様子だな。と言っても隠し穴を抜けた後にゾンビが二体いただけだぞ?」
「対象は二体と。特徴はあります?外のゾンビと一緒とか下水道の水死体のゾンビとか?」
「それなら水死体のほうだな。どちらも太ってやがったからな。お陰で押しつぶされてそのままかじられてやられてしまったんだ。」
「…そうなると起き上がれていない可能性もありかな。シマムラさんご協力ありがとうございます。」
そう言うとシマムラさんに一礼する。
静かにしてたら下の方から移動したような音もしていないし…。
うん、手っ取り早く済ませちゃおっか。
「では私はさっさと降りて処理してきますのでその後は死体を回収しちゃいましょう。…一度コミュニティールームに戻るとタイムロスがひどいので回収したらこの部屋に置きっぱなしにしておいて最後に持ち帰りで。」
言い終わるとみんなが反応する前に梯子に手をかける。
私の行動についていけていなかったのか慌てて声をかけてくる。
「指示出しが真っ先に行くのか?と言うか一人で大丈夫か?」
「まあ大丈夫だと思いますよ。あぁ、上へ持ち運びはできないので処理が終わったら降りてきてください。力仕事はお手伝いお願いします。」
そのままカンカンとあまり音を立てないように梯子を下りていく。
下の方から奥の方から音の変化が無いか聞き耳を立てながら慎重に慎重に。
やがて地面に足がつくとそのまま穴からそっと隣の部屋の様子を見る。
部屋の中にはシマムラさんのお話にあった膨らんだゾンビが二体立ち尽くしている。
既に立ち上がっている点についてだけは計算外だったけどこれだったら問題は無いと判断して穴をくぐる。
私が部屋の中に入るとゾンビがこちらに向かって襲い掛かってくる。
…という事は無かった。
前の脱出劇の時と今回観察した事があわさってはっきりしたのだけどやはり目視で反応しないようだね。
見た目からしても下水道のゾンビは目が腐り落ちてしまっているからもしや…とも思ったのもある。
だから下水道でも音に敏感に反応するタイプになっているのかなと勝手に予想する。
そしてその予想は私が部屋の中に入って堂々としながら相手の視線の先に立っても動かない事から立証された。
ではここから先どうするか?
あぁ…できれば触りたくなかったけどやむを得ない。
ここまで来たら覚悟を決めよう。
こいつ等は見た目太っているからにはバランスが悪いに違いない。
そう考えると後ろからこっそりと近づき、ボロボロの服の上の方を掴む。
『u---』
掴まれた事にゾンビが反応するがこの時点でもう手遅れである。
私は足を出してゾンビの右足をひっかけながら、服を相手の背中の真後ろあたりの地点に重心をかけて引きずり落とす。
結果、地面にぶつかる音と共にゾンビを地面に引き倒す事に成功する。
そのまま私は右足を振り上げゾンビの頭を踏み潰す。
何かが潰れる音と共に赤色の血が飛び散り地面に横たわったゾンビはピクピクと痙攣しすぐに動かなくなる。
さて一体目は処理完了と。
音を立ててしまったのですぐさま足音を立てないようにその場を離れる。
すると動かなくなったゾンビの上に緑色の液体が撒かれて蒸気があがり溶け始める。
もう一体のゾンビが音に反応して何かを吐いたのだ。
しかし、音に反応するだけならここまでである。
後は一体目と同じように足音を立てないように近づき同じように処理をする。
数分後、部屋の中に残ったのは私と頭が無い二体のゾンビだったものだけであった。