9.プール捜索
私は積み上げた机の上から飛び降り、スタッとプールサイドの灰色のコンクリートの上に着地する。
どうやら無事成功。
失敗してもどうと言うことは無いのだけどやっぱり成功した方が格好がつく。
さて、後からも入ってくることだし感慨にふけってないで移動を…。
そう考えていた私の背中に叩きつけられるような衝撃が走る。
「キャッ!」
「げふぉ!」
女性があげてはいけない声を出しているのが私ですね。
…さてその原因はといいますと。
「アンズ!私の背中に落ちてくるとかわざとでしょ!?」
「偶然着地した所がニミリの上だっただけですわ!」
「なら何でお尻から背中に落ちてきたのか説明しなさい!」
潜入とは何だったのか?
いつも通りの激しい口喧嘩という名のじゃれ合いが展開される。
お互いに一歩も引かず、むしろ加害者のアンズがなぜ抵抗するのか理解に苦しむ。
そのやり取りも上から申し訳なさげな声と共に終わりを迎える。
「あー、えっとそろそろ俺らもそっち降りていいかな?」
…大変申し訳ない。
私達は苦笑しながらプールサイドの着地点からそそくさと移動する。
どうやら女三人寄れば姦しいというけど二人でも十分だったようだね。
私達がその場を移動すると吸い殻さんとワズンさんもプールサイドに降り立つ。
こちらも苦笑いの顔が張り付いている。
「しっかしまあ息ぴったりの喧嘩だったっすね?お二人さんひょっとして他でも付き合いあるとかっすか?」
「こら、ゲーム外の情報の詮索はオンラインゲームではよろしくないぞ。…しかしまあ何と言うかこんだけ賑やかに騒いでいるのに入口の兵隊共はこっちに反応しないな」
「…そう言われてみれば。」
確かにこれだけ潜入して馬鹿のように騒いで動きもあるのに反応しない。
これはひょっとするとあのNPCは出入りの管理しかしていないのかな?
「こちらにしてみれば都合のいいことですからこのまま探索を続けてみてはいいのではないでしょうか?」
アンズさんや、前向きな事を言っているように見えますけどさっきの件ごまかしに入ってますよね?
まあいつまでも引きずっていても仕方ない。
とりあえずプールで調べられそうな所はというと…。
「じゃあ俺女子更衣室行ってくるっす!」
「私は男子更衣室を漁ってくるね!」
発言した途端後ろからぽかりと小突かれてしまった。
振り返るとアンズが疲れた顔で溜息を吐いている。
「なんでニミリが男子更衣室に真っ先に行くのですか?むしろ逆ではないでしょうか?」
「まあゲーム内とはいえよろしくはないよな。ワズン、特にお前女子更衣室に真っ先に突っ込むとか気持ちはわかるけどどうなのよ?」
…なぜだろう咄嗟に悪乗りにのっかかった即応力を誉めてほしいものだろうけど、まあ一歩間違えれば痴女だしね。
「では俺と吸い殻さんは男子更衣室で女性二人で女子更衣室でいいっすかね?」
「うーん、まあ多分その二部屋だけじゃないからな?もう少し分けてみるか。悪いけどそちらの片方は周囲に何かないか探してみてくれ。ワズンは男子更衣室で俺は設備室みたいなのがあると思うからそっちを探してみるとするよ。」
特に異論が出るわけもなく、むしろこれよりいい案なんかあるわけもないためそれぞれ四方に分かれることになる。
アンズには悪いけどプールサイド周りの探索をお願いした。
何か言いたそうにはしてたけどさっきの件もあったので強引に押し通した。
別にあんなに汚くなったプールの底を歩きたくないとかそんな理由でもないのですよ?
…さて、こちらも押し付けた以上真面目にやりますか。
私は女子更衣室のドアノブを手に取りガチャリと回す。
どうやら鍵はかかっていないようで力をかけるとそのまま開く。
更衣室の中はというと…。
薄暗くてよく見えない。
灰色の空の光に薄っすらと醸し出されるのは両脇に配置されているロッカーに真ん中に備え付けられているプラスチック製の長椅子。
そして向こう側にうつむいている人…。
そこまで確認すると私はとっさに長椅子に足を置きそのまま人に向かって蹴りこんだ。
長椅子はそのまま奥へ押し込まれそのままうつむいている人の腹にするどく突き刺さる。
鈍いぶつかる音と共にうつむいている人は衝撃のままに体を揺らしてくたっと横に倒れこむ。
悲鳴を上げないという事は生きているわけでもなく動き出さないという事はゾンビでもない。
どうやらただの屍のようだ。
「なんか物音したけど大丈夫っすか!?」
隣からワズンさんの声が聞こえてくる。
音を立てたせいで心配させたせいだろう。
「問題ないですよ。怪しいのがいたので先手で攻撃しただけです。どうやらただの死体だったようで。」
「了解…って死体っすか?」
「単なるオブジェクトみたいですね。また後で報告するから。」
さてとセーフエリアではないので用心はしていたけどどうやら取り越し苦労だったみたいだね。
少し暗いので電気はつくかなと…カチカチと照明のスイッチを押してみたけど反応がない。
やはり、電気が通っていない設定らしい。
暗いのはあきらめて…とりあえず脇のロッカーから確認しておこうかな?
いきなり中から出てきてやられたら…十分後に復帰できるけど気分的によろしくない。
一個ずつロッカーの扉を開けていこうとするが…、両側あわせて計二十個のロッカーはすべて鍵がかかっている。
とりあえず危険性はない物と判断して次は文字通りの死体蹴りをしてしまった死体を調査してみることにする。
ぐったりとした死体…よく見ると制服を着ている所からすると女子学生みたいだね。
さて、死体はどうやって調査するのかな?
そう思って手を伸ばした瞬間コンソールが表示される。
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【女子高校生の死体】
取得可能物
・胸ポケット
書物(小):1個
・スカートポケット
書物(中):1個
ポケットティッシュ:1個
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なるほど死体を直接漁らなくてもいいのね?
いや、健全な男性に不埒な事をさせないセクハラ対策なのだろうか?
とりあえず全て取得してみることにする。
すると手元に取得したものが全て置かれる。
中身をさっと確認するとある程度詳細な情報に変更され、コンソールに表示される。
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【音切 綾香の日記】
南鶴舞高校の二年生の生徒の日記
使用することで記載された文書を読む事が可能
重量:約800グラム
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【音切 綾香の生徒手帳】
南鶴舞高校の二年生の生徒の生徒手帳
生徒本人の身分を証明する手帳
メモ部分は何も記載されておらず新品である
重量:約300グラム
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…遺品みたいなものかな?
ちなみにポケットティッシュはそのままポケットティッシュであった。
特にこれといった情報にはならないけど貴重な物資であることは間違いなさそうである。
とりあえずこれは確保しておいて次を探してみることにしよう。




