23.イベント4日目 高みの見物
アンズの人がいるという言葉を確かめるために再びそっと壁から顔を出して下を覗いてみる。
まさかこんな狂気じみたワールドに来る物好きなプレイヤーなんて…
いや、もうイベントも折り返しを過ぎて一発逆転を狙ってくる人がいてもおかしくないかな?
そうなると…えーっとどこにいるのかな?
できれば散々に失敗しまくって私達にいっぱい情報をくれるといいのだけど?
…下って聞いたから近くかと思ったけど駄目だ見つからない。
ここは恥を忍んでアンズに確認を取る。
「アンズ、人がいるってどの辺りかな?」
「いいですわねぇ…あ、えっと、あの辺りですわね」
いつの間にかだらしない笑みを浮かべていたアンズは私の問いに対して指を若干右の方に向ける。
しかし何がそんなにおかしかったのだろうか?
その指先はと言うと…ああ、いたいた。
結構ここから離れてるけどよく見つけたものだね。
「あの三つロッジが並んでいる所の手前側の草むらですわね。さっきまで八人いたのですけどもう六人ですわ」
…あぁ、もうパニック映画を直接見ている感じで没入していたのか。
さっきのだらしない笑顔の原因には納得した。
人の不幸を見て笑うのはあまりよろしい趣味じゃないと思うんだけどね。
まあ仕方ないか。
とりあえずアンズには何が原因で最初の二人はやられたのか確認しておくかな?
眼下では今も走っており、多数のピンク色の物体から逃げているのは確認できるけど、詳しい情報は聞いた方がよさそうだ。
「追いかけられてるみたいだけど詳しく説明してもらっていい?」
「構いませんわよ。私が見つけた時は男性六人女性二人の集団でさきほど男性が二人やられましたわね。やったのはあの集団を先ほどから追いかけているぶよぶよの桃色の肉塊ですわね」
相変わらずよく見てるね。
しかし肉塊に追いかけられてるのか…。
「うん。ピンク色のぶよぶよした肉塊に足が二本生えて駆けまわっていると…けど見た所追い回すだけで特に攻撃手段を持っていないようだけど?」
「少し見ていればわかりますわ…。ほら、一人追い付かれましたわよね。見えているかしら?」
うん、慌ててつまずいてバランスを崩した男性プレイヤーが一人、ピンクの肉塊にぶつかられたね。
そのまま男性プレイヤーは肉塊の中にめり込んでいくと。
もがいているけどどうやら取り込まれると脱出はより困難になっていくみたいで…あぁ、周りの肉塊が集まってきた。
捕まった男を中心にして肉塊共が集まって…男性プレイヤーがいた辺りから赤い噴水が宙に飛び出した。
数の暴力で迫ってくるタイプかな?
これは逃げにくいし何よりあんな死に方は嫌すぎる。
「けどおかしいですわね?さっきはここからまたバラバラになって追いかけていたのですけれど…今回は分かれませんわね?」
なるほど初めてのパターンという奴かな?
肉塊の化け物はさらに次から次へと集まっていき…。
丸太のような筋肉質のピンクの手足が生えた十メートルはある巨大なミートボールが誕生した。
…いやあれはひどい。
追いかけられていたプレイヤー達はその姿を見ると蜘蛛の子を散らすようにバラバラに逃げていく。
もうチームプレイもあったもんじゃないね。
けれど個人プレイに走るのも正解かもしれないから否定もできない。
野生の草食動物が群れで行動するのは犠牲が出ている時はそれのおかげで他が助かる、よって群れの数により自分が犠牲になる確率がどんどん減っていくためである。
けどここは行動が「KillThemAll」の化け物しかいないからね。
犠牲者が出たからと言って止まることは一切ないのだ。
そしてバラバラに逃げた事により男性プレイヤー一人と女性プレイヤー一人がどうやらミートボールの化け物から逃げる事に成功したみたいだね。
…まあ捕まった人は踏み潰されて、握りつぶされて、肉塊の中に取り込まれてと悲惨な最期を迎えたようだけど。
合体して巨体になった事により動きが遅くなるかと思えば…むしろバラバラの小型だった時よりも俊敏に動くというのはいい情報だ。
モルモットとして十二分に働いてくれているようですごくありがたい。
「まるでホラー映画の特等席ですわね♪知っている方もいらっしゃいましたけれど…取り込まれる前のあの表情は湖畔の殺人鬼の映画の被害者みたいで素晴らしかったですわ♪」
アンズはまた趣味に走ってるよ。
趣味はいいけど観察するなり周りを警戒するなりはしてほしい所だよね。
…知ってる人?
「アンズが知ってる人だったのさっきの?」
「ええ、ニミリも会っていますわよ?名前は忘れましたけど確かロリコンの弟さんがいる説明好きのお姉さんだったかしら?」
うーん確かに私も顔は思い出せるけど名前が思い出せない。
まあそんな事は今はどうでもいいかな?
問題なのはあの残った二人がどうなるか、どうするかだね。
私の希望としては後でかち合うような不確定要素は残らないでほしいんだけど。
「残った哀れな子羊は…このままだと逃げ切ってしまいそうですわね。ここで劇も終わりかしら?」
「アンズ、人の不幸を期待するのはあまりよろしくないんじゃないかな?あの二人はよく頑張ってくれたでしょ?」
ミートボールの化け物の追撃を振り切った二人はフラフラになりながらもなんとか合流をし、草むらをかき分けながら必死に走っている。
もうそろそろ視界からも外れるから終わりにするかな?
そう思った時である。
また草むらのあちこちから先ほどと同じけたたましい音がリーンリーンと鳴り響いてきたのである。
あまりの音量に私もアンズも咄嗟に耳を押さえる。
耳を押さえたままでも音は頭に響き渡る。
この元凶の情報は押さえておきたいね。
私はこのやかましい音源を探すために下をきょろきょろと見まわす。
すると音の出る方には三メートルはある茶色い昆虫が背中の羽を鳴らし続けているのが確認できた。
草むらからだと見えにくい高さというのが嫌らしい。
それを考えると周りの様子をじっくりと伺えるこの開始位置は当たりだったと思えるね。
そしてこの昆虫、どうやらあちこちにいるらしく複数個所で姿を確認できる。
やがて音が鳴り止むと手を耳から離してアンズと顔を見合わせる。
「コオロギかスズムシかしら?大きくしただけでは面白みがありませんわね?」
「けれど一時的に耳押さえるために動き止められちゃうし、鳴っている間は聴覚が使えないから嫌がらせとしては中々に…」
『『Biiiiiiiiiiii-----!!』』
私の話は突然鳴り響いたブザー音により中断させられてしまう。
…私達の位置がばれたのかな?
と思ってきょろきょろと私達の周囲を確認したけど、特にこちらに何かあるという事は今の所無さそうだ。
じゃあ何だったのだろうか?
「ニミリ見てください。あそこのスズムシみたいな虫が赤く光っていますわ」
アンズの指摘した方向を見ると…確かに草むらの中にいる昆虫が二匹、空の真っ赤さに負けないくらい赤く光り輝いていた。




