23.決戦下水道一号作戦 -状況開始-
ハシゴを降りた先は相変わらず煌々と灯りが付いておりとても下水道とは思えない空間である。
降りたメンバーは下水路とは外れた位置にある奥の横穴に向けて注意を向けている。
この横穴へ向かおうとしてハリネズミが現れたので、来るならばこっちの方からだろうと予想しているためである。
それぞれが規則正しく配置されている円柱の陰に身を隠すと振り向いてこちらを見てくる。
頷いている事から準備ができたということだね。
ちなみに私とアンズは身を隠した他の人達の更に後方の壁際に陣取らせてもらっています。
右手にはビニール袋…中身は大丈夫必要なのは揃ってる。
問題ないね。
私はそのままワズンさんに進むよう身振りで指示を出した。
ワズンさんは頷くとそのままおっかなびっくり上を向きながら慎重に歩いていく。
その様子に注目していた所、右に立っているアンズから押さえた声で話しかけられる。
「ねえ、ニミリはなんであの人に行かせたのかしら?」
「…それは当然汚名返上のためだね?危険な事をやらせる事によって昨日の失敗を帳消しにできるんじゃないかなと思ってね」
「そうですか…てっきり指示を聞かない人は真っ先に使い捨てようと考えているのかと思っていましたわ」
やだねーそんな事、微塵しか考えていませんよ。
まったくもって人聞きの悪い。
これが他の人の耳に入ったら私のイメージ台無しじゃないですか。
「まあそんな事は無いと言っておくね。…アンズ、そろそろ前回ワズンさんが踏みつぶされたポイントだけど何か気付いた点はある?」
「…そうですわね。前回は天井から降って来たという事でしたけど不審な点はありませんわね。…ニミリ、あの人の地面不自然に揺れていません?」
アンズの指摘に対して私は地面に目を凝らす。
よく見たらコンクリートの床の上にあるゴミが…揺れてる?
やがて揺れは大きくなりフロア自体が震度1ぐらいの軽い揺さぶりを受ける。
この時点で全員辺りをきょろきょろしはじめたので異変には気づき始めた。
けれど私とアンズ以外はどこから来るのかは気付いていないかもしれない。
「下から来るよ!気を付けて!」
私は咄嗟に声を張り上げて叫んだけど、結果としては無駄に終わってしまった。
直後にコンクリート床を突き破り、巨大なハリネズミが出現したためである。
轟音と共に怪獣映画の怪獣のようにハリネズミは直上にいたワズンさんを背中の針山で串刺しにするとそのままコンクリートの埃を払うからのように体をフルフルと震わせる。
言うまでも無く地面に何の関心も示していなかったワズンさんは串刺しになったまま電子の塵となりここで一度退場である。
ハリネズミは背中の死体の事は気にせずに既に次の動作に入っている。
昨日見た通りに頭を引っ込めて足を踏ん張り始めている…背中の針を飛ばしてくる前兆かな?
こちらはというと…まずい浮足立って混乱している。
「全員伏せるか柱の陰に隠れて!針が飛んでくるわよ!」
私の声にハッとして慌てて身を低くしながら柱の陰に逃げ始める。
…伏せは慣れていないのかな?
伏せの方が助かる可能性高まると思うんだけどね?
おっといけない指示を出して突っ立ってやられてしまったら笑いものにもならない。
距離はあるけど私とアンズも柱の陰に背を預けて身を大体隠す。
その後昨日と同様にやはり針が四方八方に飛び出し、コンクリート製の柱や壁や天井を破壊音と共に次々に抉り取り、私達の頭上に降り注がせる。
当然天井へ射出した針もこちらへと落ちてきて大変危険…。
あ、コンクリートの塊がブラックさんの頭に直撃した。
すぐにその場に倒れて塵になって消えていっている事から頭蓋骨陥没でもして即死判定だったっぽいね。
それでも私とアンズはハリネズミからは目を離していない。
針を射出したハリネズミは鼻を鳴らすかのように上機嫌な足取りで壁に向かってノッシノッシと歩いていく。
…やはりあいつは。
「ワズンさん、ブラックさんはアウト!ハリネズミが壁を登り始めました!そのうち転がって来ます!各員相手から視線を外さないように!」
そう叫ぶとようやく相手が床にいない事に気付いたようだ。
…まあ私も前回同じことやらかしたのでここは強くは言えない。
「畜生、横に飛べ!横に飛べ!轢き潰されるぞ!」
サカキさんは経験者のせいか反応が若干早い。
けど相手よく見ておかないと…。
ほら、転がる前から横に飛ぶと転がった先に。
無情にもサカキさんが飛び込んだ先にハリネズミが転がって行く。
…狙ってもなかなかできないんだけど?
私が軽くあっけに取られている間も事態は進行していく。
サカキさんを下敷きにして挽肉に変えたハリネズミは勢いを落とさずそのまま激しい音を立てて壁に激突してまためり込む。
…ここまで昨日と全く同じ展開。
ひょっとしてワンパターンなのかねこれは?
まあコンクリートの粉塵が舞っている先が昨日と同じように壁にめり込んでいるのであらば、この状況こそ望んでいたのでよしとしよう。
事実もがいて脱出しようとしているようなので間違いは無いようだね。
こちらも行動を開始しましょうか。
「サカキさんもアウト!想定の事態に追い込んだので各員ハリネズミの視覚外で隠れてください!」
私は持ってきていたビニール袋から必要なアイテムを取り出す。
それを興味深そうにアンズが覗き込んでくる。
「それが今回必要なアイテムでしょうか?」
「そうだよ。はい、アンズの分」
私はそう言うと桃の缶詰をアンズに手渡す。
「えーと…これは?」
「桃缶だね」
きょとんとしているアンズに手渡すと私ももう一個のアイテムを取り出す。
私は回転式拳銃を取り出すと弾がきちんと順序通りに装填されているか確認する。
最初がこれで、後は…。
よし、問題なし。
「拳銃も持ってきていたのですね?それで仕留められますでしょうか?」
「どうかな?まあやってみるしかないよね。アンズは桃缶の蓋を開けて右に三歩移動。そこから何があっても動かないでね」
そう言うと銃口をまだ起き上がる事の出来ていないハリネズミに向ける。
右側から顔を出して様子を伺いながら、もがいて脱出しようとしている。
タイミングとしてはもうちょっと後がいいかな?
ヘッドショットは…狙って外したらまずいので狙うのは背中にしよう。
そう考えているとハリネズミは壁から脱出しゆっくりと地面に八つの足をつける。
このタイミング!
私は軽く息を吸い込むとサイトを大きい標的に合わせて引き金を引いた。




