第10章 因果のループ
エドマンド・ハリントンを探し続けていたカイは、ついに港へたどり着いた。
そこは商人、船員、労働者、旅人たちでごった返しており、誰もがそれぞれ別の方向へと行き交っていた。船が次々と入港し、また出港していく。その一方で、作業員たちは大量の荷物を運びながら埠頭を走り回っていた。
カイは人混みをかき分けながら、必死にエドマンドを探した。
もうこれ以上、時間を無駄にするわけにはいかなかった。
焦っていたカイは、突然、反対方向から歩いてきた商人とぶつかった。
「気をつけろ、このクソ野郎!」と商人が怒鳴った。
カイは立ち止まり、苛立った表情で商人を見た。
何週間もエドマンドを探し続けていたのだ。これ以上、誰かに邪魔をされるのは御免だった。
「は? 誰がクソ野郎だって? この変態、エロ漫画に出てきそうな顔しやがって。」
商人の顔は、怒りで一瞬にして真っ赤になった。
侮辱されたことが明らかに気に障ったらしく、彼はカイへ一歩近づいた。
「よくもそんなことを言ったな! 俺が誰だか分かっているのか?」と商人は、さらに激しく怒鳴った。
カイはしばらく商人を見つめ、それから肩をすくめた。
「お前が誰なのかなんて知らないし、知りたいとも思わないよ、変態さん。」
そう言って、カイは再び背を向け、捜索を続けようとした。
商人はその場に立ち尽くし、怒りに震えていた。
プライドを傷つけられた彼は、カイをそのまま立ち去らせることができなかった。
商人はポケットに手を入れ、銃を取り出した。
結果など考えることもなく、カイに銃口を向け、引き金を引いた。
銃声が港中に響き渡った。
カイはその音を聞き、本能的に振り返った。
しかし、弾丸はすでに彼の横を通り過ぎていた。
カイには当たらなかった。
代わりに、その弾丸は彼の背後に立っていた人物に命中した。
一瞬、すべてが止まったように感じられた。
カイは商人を見た。
それから、ゆっくりと人混みのほうへ振り返った。
人々はパニックになり始め、叫び声を上げながらその場から離れていった。
カイは人々をかき分け、誰が撃たれたのか確認しようとした。
そして、彼は見た。
エドマンドだった。
何週間も探し続けていた、その男が地面に倒れていた。
カイは凍りついた。
ついにエドマンド・ハリントンを見つけた。
しかし、それは彼が想像していた形ではなかった。
カイは紋章についての答えを探し、その起源へ導いてくれる人物だと信じて、エドマンドを探していた。
そのエドマンドが今、自分に向けられたはずの銃弾の犠牲になっていた。
少し離れた場所で、ウィリアムはそのすべてを目撃していた。
彼は父親を救うために時間を越えてきた。
この瞬間を何度も何度も想像していた。
父親が亡くなるその日に間に合うことができれば、過去を変えられると信じていた。
しかし、彼がたどり着いた先で待っていたのは――
父親が目の前で死んでいく姿だった。
ウィリアムはショックで動けなくなった。
数秒間、父親の身体を見つめていたが、やがて目をそらした。
これ以上、見続けることには耐えられなかった。
こんな形で父親を覚えていたかったわけではない。
何年もの間、父親の顔を思い出そうとしてきた。
そしてようやく父親を見つけた。
それなのに、その記憶は永遠に、父親が死んだ瞬間と結びついてしまった。
カイはその場に残り、何が起きたのかをまだ理解できずにいた。
エドマンドをついに見つけたという喜びは、完全に消え去っていた。
くだらない口論から始まった出来事によって、一人の男が死んだ。
カイが引き金を引いたわけではない。
しかし、もし自分がそこにいなかったなら、商人が銃を撃つこともなかった。
他に事態を償う方法が思いつかなかったカイは、自分でエドマンドの家へ行き、家族に知らせることを決めた。
家に到着すると、エドマンドの妻がドアを開けた。
カイが起きたことを彼女に伝えた瞬間、彼女は泣き崩れた。
カイは気まずそうにその場に立ち尽くし、彼女を慰めるための正しい言葉を見つけられなかった。
情報を求めてここへ来たはずだった。
それなのに今、彼は自分の捜索によって人生を壊されてしまった家族の家に立っていた。
少年は窓の近くで黙ったまま立ち、少し離れたところからすべてを見ていた。
母親が泣いていることも、大人たちが出入りしていることも分かっていた。
しかし、父親がなぜ帰ってこないのか、その理由を完全に理解するには、まだ幼すぎた。
葬儀が行われる中、カイはエドマンドを悼むために集まった人々の中に立っていた。
そこで彼は、他の人々から離れて立ち、静かに葬儀を見つめているエドマンドの息子に気づいた。
カイは少年のところへ行って何か声をかけようと思った。
少しでも元気づけるか、せめて慰めてやろうと考えた。
しかし、彼は足を止めた。
一体、自分に何が言えるというのだ?
その少年が父親を失った原因は、自分なのだ。
カイは、少年を一人にしておくほうがいいと判断し、背を向けた。
立ち去ろうとしたそのとき、カイは誤って棚にぶつかった。
棚から一冊の本が落ち、悲しみに暮れる少年のそばへ落ちた。
少年は足元の本を見下ろした。
しばらくして、それを拾い上げ、両手で抱えた。
表紙が少年の目を引いた。
それは――タイムトラベルについて書かれた本だった。
カイは知らなかった。
自分がすれ違ったこの少年が、いつの日かウィリアムになることを。
ウィリアムも知らなかった。
子供の頃、窓越しに見たスーツ姿の男が、カイだったことを。
二人の道は、すでに交差していた。
しかし、二人ともそのことを知らなかった。
まだ。




