第3話 Sランク冒険者《黒鉄》ガルド。その一撃は、まだ世界の誰も知らない
「俺と勝負しろ。」
ギルド中に響く低い声。
目の前には、身長二メートルを超える大男。
全身を覆う黒い鎧。
背中には人の身長ほどある大剣。
そして胸には、銀色に輝くSランク冒険者の証。
《黒鉄》ガルド。
その名を聞いた瞬間、ギルドにいた冒険者たちは一斉に距離を取った。
「終わったな、あの新人。」
「ガルドは竜すら倒した男だ。」
「SSSスキルでも新人じゃ勝てない。」
俺は思わず唾を飲み込む。
(いやいやいや、初日だぞ!?)
牢屋から逃げて。
飯食って。
ギルド登録しただけ。
なんでSランクと戦う流れになるんだよ。
「断ったら?」
恐る恐る聞く。
ガルドは鼻で笑った。
「断るのは自由だ。」
「じゃあ……。」
「だが、お前が本当にSSSスキルなら、国中から狙われる。」
「……。」
「弱ければ奪われる。」
空気が変わる。
先ほどまで笑っていた冒険者たちも、今は真剣な顔になっていた。
受付嬢が静かに口を開く。
「……ガルドさんの言う通りです。」
「え?」
「SSSスキルは数百年に一度現れるかどうかの存在。」
「王国も帝国も、教会も魔族も欲しがります。」
「力があるなら証明しなければなりません。」
ミルクが俺の袖を掴んだ。
「無理なら逃げよう。」
「逃げても追われるんだろ?」
「……うん。」
俺は大きく息を吐いた。
「分かった。」
ガルドを見る。
「やる。」
その瞬間、ガルドが初めて笑った。
「いい目だ。」
◇◇◇
決闘は街の闘技場で行われることになった。
円形の巨大な石造りの競技場。
数千人は入るであろう観客席は、噂を聞きつけた住民で埋まり始めていた。
「新人対Sランクらしいぞ!」
「しかもSSSスキル!」
「名前だけ聞いた!」
「なんて?」
「おち◯ぽ砲。」
「…………。」
「ぶはははは!!」
笑い声が広がる。
「もうやだこの世界。」
ミルクが苦笑した。
「有名になったね。」
「そこ喜ぶとこじゃない。」
◇◇◇
闘技場中央。
審判が高らかに宣言する。
「勝敗は降参、戦闘不能、場外!」
「それでは──始め!」
ゴォン!!
鐘が鳴る。
ガルドは剣を肩に担いだまま動かない。
「来ないのか?」
「新人相手に先手は取らん。」
完全に格下扱いだ。
(どうする。)
スキルの使い方なんて分からない。
適当に撃って当たる相手でもない。
俺は深呼吸し、一歩踏み出した。
その瞬間だった。
ドンッ!!
視界からガルドが消えた。
「え?」
横。
反応した時にはもう遅い。
ズガァァァン!!
剣ではなく拳。
それだけで俺の体は十数メートル吹き飛び、壁に叩きつけられた。
「がっ……!」
息ができない。
肺の空気が全部抜ける。
「ユウ!」
ミルクの叫びが聞こえる。
「立て。」
ガルドは歩いてくる。
「その程度か。」
「……っ!」
足が震える。
立て。
立て。
ここで終わるわけにはいかない。
「まだだ!」
俺は立ち上がる。
観客席から歓声が上がった。
「新人が立った!」
「根性あるぞ!」
ガルドは少しだけ目を細めた。
「なら次は剣だ。」
巨大な剣を抜く。
ギィィィン……
重い金属音が響く。
地面に置いただけで石畳が割れた。
(嘘だろ……。)
あんなの食らったら終わる。
ガルドが踏み込む。
速い。
「終わりだ。」
剣が振り下ろされる。
俺は咄嗟に腕を前へ出した。
(頼む!!)
その瞬間。
右腕が熱くなる。
頭の中に声が響く。
【敵意を確認】
【戦闘補助モード起動】
【おち◯ぽ砲 出力5%】
「え?」
黒い魔力が右腕を包む。
「撃てぇぇぇぇぇ!!」
ズドォォォォォン!!!
漆黒の衝撃波が一直線に走る。
ガルドの大剣と正面衝突。
ドゴォォォォォン!!
爆音。
衝撃で競技場全体が揺れる。
砂煙が舞い上がる。
誰も何も見えない。
数秒後。
風が吹き抜ける。
煙が晴れた。
そこには──
ガルドが立っていた。
しかし。
握っていた大剣は、真ん中から綺麗に折れていた。
「……馬鹿な。」
ガルドが初めて驚いた顔を見せる。
会場が静まり返る。
Sランクの武器。
王国最高峰の鍛冶師が打った魔剣。
それが、一撃で折れた。
「……はは。」
ガルドが笑う。
「なるほど。」
「これがSSSか。」
俺は肩で息をする。
腕が焼けるように痛い。
「もう一発……。」
撃とうとする。
しかし。
【魔力不足】
【再使用まで24時間】
「え?」
その瞬間、力が抜けた。
膝から崩れ落ちる。
「ユウ!」
ミルクが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「ごめん……もう撃てない。」
ガルドは折れた剣を見つめ、小さくため息をついた。
そして剣を鞘へ戻す。
「勝負はここまでだ。」
審判が慌てて叫ぶ。
「しょ、勝者は……」
「引き分けだ。」
ガルドがそう告げた。
「新人。」
「今日は俺の負けだ。」
「だが。」
その目は真剣だった。
「世界には、俺より強い化け物がいる。」
「そいつらがお前を放っておくと思うな。」
その言葉を最後に、ガルドは闘技場を後にした。
会場は大歓声に包まれる。
だが、その歓声とは裏腹に。
闘技場の最上階。
誰にも気付かれない場所で、一人の黒いローブの人物が口元を歪めていた。
「見つけた。」
「ようやく……SSSスキル保持者を。」
その瞳は、まるで獲物を見つけた捕食者のように冷たかった。
――第4話「黒衣の魔導師。狙われるSSSスキルと、ミルクが隠していた秘密」へ続く。




