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刑務官

 ある男を殺せ。所長は私にそういった。私と同じことを告げられたあとの二人も、どこか仕方ないというような表情をしていた。

 

 次の日の午前9時、担当刑務官が死刑囚をお迎えに行く。その後、教誨室に連れられた死刑囚に本格的に、死刑執行の旨が知らされる。

 

 「俺たちの誰かがあいつを殺すんだよな」

そう放ったのは、私と待機している一人の先輩刑務官だった。

「そんなこと言わないでくださいよ。なるべく考えないようにしてるんですから」

そう答えたのは、私より年齢が下の刑務官。私はこの二人の会話を聞いて、嫌に緊張し始めた。

 

 せっかく噛んでいるガムも味がしなくなっ頃、我々は所定の位置に着くように言われた。私とほかの二人は三つ並んだボタンの前にそれぞれ立つ。そして、私たちのすぐ後ろにはレバーを握った刑務官がいる。これは、もし私たちがボタンを押せなかったときにレバーを引いて床を開く係。つまり、確殺係と言うことだ。

 

 さて、時間だ。私と他の二人は同時にボタンを押した。

 

 ある男が死んだ。私のすぐ側で。悲鳴などはない。ただ、床が開くガコンという音だけが私の耳に響いた。


 死刑を執行した刑務官は、封筒に入った手当をもらうとすぐに帰宅する。つまり半休だ。手当はかなりいい額を貰えるが、その日のうちに使う人がほとんどらしい。


 私はコンビニに入り、酒と吸えもしないタバコをかった。公園で酒とタバコを摂取する。初めてのタバコは不味くて、煙たくて、気持ち悪くて、すぐに捨てた。酒はうまい、大好きだ。


 公園を走り回る子どもを見ると、嫌に同情的になる。これと言って言語化はできないが、成長するのが可哀想に思えてくる。大人を見ると少し腹が立つ。これは言語化が出来る。よくも俺が人を殺した直後で辛いのにのうのうと生きていられるな、だ。 わかってる。理不尽極まりないのはわかっているが、なぜかこんなことが思えてしまうほど疲弊している。


 私は一人の男を殺した。私は殺した。私は殺した。いや、そもそも俺が殺したのか。俺じゃない。俺じゃない俺じゃない俺じゃない!絶対違う!違う違う違う!俺が殺したんじゃない!


 私はそう思うことで精神を保った。ただ、理解している。殺したのは俺かあの二人の誰か。いや、俺たちだけじゃない。俺たちだけじゃない。そう思うことにした。

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