【57】めでたしめでたし
発砲の反動で吹き飛んだ僕が地面に転がるのと同時に、黒龍が地面に倒れ伏す。
数秒の静寂の後に、アーネリカがその首にハルバードを振り下ろした。
首が転がる。切り離された体は微動だにしない。
「勝った……?」
僕の呟きに返答はない。けれど、肩で息をしていたアーネリカが、ハルバードを地面に落として振り向いた。
「リツヤさぁああああああああんっ!!」
「ズツキッ」
戦いも何もかもかなぐり捨てて、こちらに駆け寄ってくるアーネリカ。
そしてそのまま腹部に突撃された。勢いそのままに腹に突撃(多分本人的には抱きついてきた)し、腹部に頭をぐりぐりと擦り付けられる。
「やりました!!倒しましたやりましたよありがとうございますリツヤさん!!」
「あいたたたたた頭頭ドリル痛い痛い」
嬉し泣きしながらぴょんぴょんグリグリと歓喜を表現するアーネリカを叱りきれずに居ると、今度は背中に衝撃が走る。
「よくやった!!」
「ズツキッ」
こちらもまた感極まったローザドーロさんによる背中への突撃であった。
親子というのはこういう挙動も似通うものらしい。しかし頭突きはそこまでで、今度は頭を振り回すような感じでぐりぐりと撫でられる。
「よーしよしよしよくやった褒めてやる!!」
「あいたたたたた血縁を感じる褒め方あいたたた」
「で、これが拳銃か」
「うわ急に落ち着いた怖い。というかご存知です?」
短剣から変貌したデザートイーグルを手に取り、しげしげと眺めている。
安全装置をかけておいたが慣れた手つきで解除、そしてすぐにもとに戻した。挙動を見るに知識はあるようだ。
「知識としてだけはな。そういうものが好きな異世界人が本を出していた。サバ……?がなんとか」
「ああサバゲー……」
「実物は初だな。技術的に出来ないとか云々だったはずだ」
「結構緻密ですからね、銃器は」
下手に再現をしたら暴発して致命的な事件を起こしかねない。サバゲー好きの異世界人さん、趣味に飢えているだろうによく踏みとどまってくれた。
「ここまでお見通しとは……つくづく良い女だな、我が妻は!!」
実際この拳銃が無ければ勝つことはできなかった。
神話の武器でなく拳銃を出すところまでお見通し……かは分からないけれど、どのみちこの勝利の決定打はランティナさんによってもたらされたものである。
「それは本当にそう」
「あ゙?」
「ただ恩人を称賛しただけです、神に誓って」
「ならばよし」
今度は軽く頭を撫でられたあとに、デザートイーグルが返された。
この人は僕相手にもちょくちょく父らしい挙動をする。
素直に受け取って、アーネリカによって切り落とされた黒龍の首……その首と頭の境目部分を探る。
探せばそれはすぐに見つかった。一つだけ逆向きに生えた鱗、逆鱗である。
「えーと、ナイフ……」
「切り取るのか?」
「はい」
「フム」
僕の隣にしゃがんだローザドーロさんは、確かめるように逆鱗に触れる。そして薄っすらと入れ墨が金色に発光し、そのままべギャッ、という音とともに逆鱗を引き剥がした。
「そら」
「わーぉ」
死んでいるとはいえそんなにあっさりもぎ取れると思っていなかったので驚きを隠しきれなかった。
差し出されたので受け取って、透かして見る。なんとなく、何をすればいいかが頭に流れてきた。
「あとは解毒薬ですね……僕多分作れますねこれ」
「よし褒めてやろう、ハグが要るか?」
「アーネリカ、ハグミープリーズ」
「はぁーい」
「何気に失礼だぞ貴様」
アーネリカにハグを貰い、そして一度深く深呼吸をする。
虹色茸、溶岩結晶、万年雪、そしてこの逆鱗。
素材は揃った。そして作り方も何故か理解している。
仕事の時間だ。
「やりますか」
小鍋に万年雪を入れ、その上で虹色茸を振る。七色に輝く胞子が鍋の中に降ってゆく。
それを適度にかき混ぜてから、万年雪と茸の混合物の中に溶岩結晶を落とす。
ボコボコと沸騰した万年雪は完全な液体になり、毒々しい虹色を放つ液体に変わる。
黒龍の逆鱗を石臼でひいて粉状に……できない。
「いや分かってたけど硬い」
「動かないんですか?お任せあれ」
「ジャム瓶の蓋開ける気軽さでいったねぇ……ありがとう」
眼の前でゴゴゴゴッ、という音が鳴り、たった数秒で鱗が粉砕された。
粉状になったそれを虹色の液体に混ぜ込めば、虹色も糞もない漆黒の液体が出来上がった。
「わあ禍々しい」
「……効くのか?」
「効くはずですが保証は無いですね!!」
「言い切るな愚か者」
「……やめときます?」
自分で作っておいて何だが、思った倍くらい人に飲ませていいか分からない外見の物ができてしまった。
なので一応お伺いを立ててみる。
「信じるさ」
「信じますよ?」
「二人揃って男前ぇ」
一も二もない即答であった。そしえ迷いなくその液体を受け取って、ランティナさんの口元にあてがう。
眠っているはずのランティナさんだったが、小瓶に移し替えた液体が口の中に消えていく。
飲みきったらしい彼女は、ゆっくりと目を開いた。
「あらら。思ったより早かったのね。ありがとう」
「ランティナ、抱きしめても?」
「抱きしめたあとに聞くことじゃないわ」
眼の前で展開される親子全員の熱い抱擁を邪魔するほど無粋ではない。そっと気配を消していると、抱擁が終わったらしいアーネリカが眼の前に飛び出してきた。
「うわっ!?」
「あ、すみません。そしてこれに署名お願いしますね、リツヤさん」
「署名……書類?」
差し出されたのは『契約内容について』と書かれた書類である。
受け取って内容を読み込んで見れば、料理人としての雇用内容について変更が書き綴ってあった。
「期限変更……旅の間、から、僕が拒否するまでは一生、って?」
「これからもついて来てくださいますか?」
「勿論」
差し出された手を取れば……背後からクラッカーが鳴らされた。振り向けばニコニコ笑顔のランティナさんである。どうやらしっかり観察されていたらしい。
「……めでたしめでたし?」
「ですね!!」




