【2】物騒すぎるスキル欄
少女の発言で確信が確証になった。
やはりこの世界は異世界らしい。ほらね?僕が貧弱とかではないんだよ。確かに運動不足になりがちなヒョロガリではあるけれど流石に少女に全力を出して負けることはありえない……ありえないよね?多分。
「外見でわかるものなんだね」
「外見というか、行動ですね」
「行動?」
「普通この森をその装備で通過しようとは思いません」
「装備」
「下手したら開幕一歩で道行く雑魚のお腹の中です」
「開幕一歩かぁ」
ずっと寝ていたこちらの最低限の言動で見極めたのでなければ、僕の格好がよほど奇異な外見だったのかと思ったがそうではないらしい。
なるほどダンジョンに丸腰で挑むようなものだったのか。たしかに精神異常者か思い上がり甚だしい無鉄砲じゃなければ消去法でそうなるだろう。
「よいしょ、っと」
「あ、だから毒が……」
こちらとの会話に意識が逸れて抑える手がどいていたので、軽く反動をつけて起き上がると渋い顔をされた。
再びベッドに押し戻されそうだったので、片手で制してさっさと釈明することにする。
「だーいじょうぶ。蠍由来の毒でしょう?諸事情あってね。自然由来の毒の大半は効かないから。体調にも違和感はないから、大丈夫。ね?」
「……」
ここまで目で雄弁に語られたのは初めてかもしれない。
全く信じてない。ものすごく疑われている。テストか野良猫を隠している子供を見るような目がこちらを射抜いていた。
「失礼ですが、ステータスを見ても?」
「やり方がわからない場合はどうすれば?」
「念じていただければそれで」
「念じる」
異世界転生によくあるヤツのことだろうか。
それはそうとしてステータスを見ただけで何がわかるのだろう。まあ特段困るようなこともないので従うけれど。
とりあえず、なんの捻りもなく『ステータス』と念じてみればゲーム画面にありがちな雰囲気のウィンドウが眼の前に表示された。
ありがちなバグみたいなステータス、なんてものはなく、基準こそ知らないがおそらく慎ましやかな部類であろう数字が羅列されている。
しかし、当の本人はステータスにまるで興味が無いらしく、その下の部分を注視していた。
『スキル一覧』とだけ書かれたその部分には、以下のようなスキルが名を連ねていた。
【精神苦痛耐性 レベル8】
【肉体苦痛耐性 レベル8】
【毒耐性 レベル8】
【毒保有 レベル1】
【拷問術 レベル6】
あまりにも物騒なスキル名の羅列。……どうしよう身に覚えしかない。
当方、家庭の諸事情があって苦痛や毒物に人より多少耐性があるのだ。
え?その諸事情について?いや今言及する必要な別にないでしょう。ということで、いずれ語ることにして今は黙秘権を行使させてもらうことにする。
念の為、言い訳をさせてもらうと、極端な被虐趣味の家に生まれたとか、女王様の経歴があるとか、そういうのではない。断じて。そういうのは一種のプロだと思うので勘違いとはいえそう言われるのは本職(?)の皆様の失礼になりそうだ。
そこまで考えてふと視界をステータスから上げると、絶句している少女の姿が目に映った。
やばい。もしかしなくてもこれは上記の勘違いをされているやつではなかろうか。トンデモ変態趣味の不審人物を招いたと思われている可能性がある。
無駄に不安がらせる必要はない。いや多分僕が本当に上記のようなド変態であったとしても眼の前の美少女に片手で組み伏せられてはいおしまい、だろうけれども。変態疑惑は変態疑惑、実力差は実力差である。弁明をせねばなるまい、たとえ一切信じてもらえないとしても。
「あの、これは」
「……どういう人生を歩めば、こんなにも、過酷な……」
その呟きの声音に違和感を覚えた。
驚愕こそ聞いて明らかだが、不快感や軽蔑は感じない声音だ。むしろ尊重や畏敬に近いものを感じる。
「あの……?」
「あ、失礼しました。とりあえず、本当に毒は大丈夫そうですね」
もう一度声をかければ、ぱっと笑顔を向けられる。そしてどうやら信じてもらえたらしい。
ようやくベッドから解放されたので、立ち上がってから頭を下げた。
「改めて、感謝と自己紹介を。僕は隼律也。助けてくれてありがとう」
「では……ベルツォーネ家が長女、アーネリカ・ベルツォーネと申します」
とても優雅なお辞儀……というよりかはカーテシーという方が適切であろう洗練された挙動。
どうしよう。初手クソでカ武器でサソリの頭を叩き切るという暴挙のせいでだいぶフランクに接していたが、この子とんでもなくいいとこのお嬢さんかもしれない。
慌てて話題を逸らすことにした。いや気になっていたことではあるんだけれど。
「ここはあなたの……」
しれっと口調を変えてみる。あわよくば最初からこんな感じだった風に……
「先ほどと同じような喋り方で大丈夫ですよ」
……ガッツリバレていたので静かに諦める。
「ここは君の家?よくあの、森?から担いで来れたね」
「そんなに移動してませんよ」
「え?いやでもあの森にこんな家……」
そこまで喋った時、ずしんと地鳴りが起きた。




