【1】目が冷めたら知らないサソリの上でした
新連載です!!
『目が覚めたら見知らぬ天井でした』
よく使われるフレーズだと思う。
自分も目覚めたら病院の天井、目覚めたらダイレクトに土……まあ人より多少色々経験している自負があった。
けれどさすがに、『目覚めたら臨戦態勢のショッキングピンクの巨大な蠍の上でした』は人生で初めての体験だ。
「おっ、とぉ……?」
記憶を必死にたぐる。確か、何か実験をしていて……いや折檻だったか…大分記憶があやふやだが…それで確か……。
「危なッ」
思考が容赦なく叩き切られる。
急に暴れ出したショッキングピンクの蠍に振り落とされ地面に衝突する。
なるほど、かすみがかった記憶をたぐる時間と猶予は与えられていないらしい。
既に尾の素振りを始めた蠍の目には明確な敵意があった。
「よし、逃げようか」
思考を一旦停止。体の全機能を逃走に使って全力の逃避を開始。
一切脇目を振らずに逃走するも、どうやらここは森の中らしい。足場が悪くて思ったように逃走できない。
それに対して蠍は無限軌道さながらに足を使って器用に追ってくる。なるほど体がでかいと倒木も小さな段差と相違ないらしい。
元の一歩の大きさ、機動力。あっさりと逃げ道は無くなった。
「袋のねずみ……窮鼠猫を噛むともいうけれど、あの装甲に噛みついたところで無意味かなぁ」
喋っている間にも尾による刺突が襲ってくる。だがそれで仕留める気がないのは分かりきっていた。
頬、腕、足を掠めて、そこで尾がとまる。
謎の沈黙。まるで何かを待っているような。
ほんの僅か、困惑のような挙動を見せた蠍が尾を再度構える。
今度こそ仕留めるという明確な殺意を感じ取り、そして自分では避けられないことを確信する。
終わったなぁ、と天仰いだ時、見上げていた太陽が消えた。
正確には、太陽を遮るものがあった。
銀色の輝き、巨大な刃。
そして、それを振り上げている可憐な少女。
「一撃……粉砕ッ!」
巨大なハルバードが尾と首を一緒くたに両断した。
聞こえてきた叫び声の通り、切断ではなく粉砕。砕け散った殻が足元にばらばらと散らばり、吹き出した血飛沫が顔にかかる。
蠍を一撃で仕留めた美少女がハルバードを振り回して血を振り払った。
薄紫の髪を高い位置でポニーテールのように結び、それを二股に分けてそれぞれの房にリボンで巻き付けて飾っている。
前髪には一筋の銀メッシュ、肌は陶器のごとく白く美しく、印象的な双眸は蜂蜜のような黄色。そして目の横、髪の間からは……長く尖った耳が覗いていた。
ショッキングピンクの蠍、巨大なハルバード。なにもかも知っている世界とかけ離れている。ゲームの中と言われた方がまだ納得できる、それなのに。
「大丈夫ですか?」
微笑みと同時に差し出された白い手に、泣きたくなるほど既視感があった。
「優規……?」
「え?」
弟の名前が口からこぼれ、耳に届く。
そしてその響きに安堵したのか、脳が思考に一斉にブレーキをかけた。
(あー……気絶……申し訳が……)
反動で重くなる瞼が閉じられる直前、こちらに伸ばされる手が見えた。
◇
『目が覚めたら見知らぬ天井でした』リターンズ。この短期間での再放送、一体誰が望んだだろう。
「あ、起きましたか」
こちらが起きたとほぼ同時に起床を感知したらしい少女が、とことこと歩み寄ってくる。
改めてその外見をまじまじと見つめるが、先程のサソリを一刀両断したとはまるで思えない可憐な少女だった。顔のパーツはとても可愛らしく整っているものの、丸く大きい目などで幼く見える。下手をすれば、幼女、と言っても通じてしまうかもしれない。
それほど幼気な美少女が、サソリを両断。そんなことがあったとすればもはや世界のバグだろう。
だがしかし、見間違えた覚えもない。つまりこの少女が蠍を一刀両断したのは紛れもない事実ということになる。
「世紀末か何かかな……?」
それはそれ、これはこれである。助けてもらったという事実に変わりはなく、そうなのであれば、やらなければならないことがある。
感謝だ。とりあえず上体を起こそうとしたが、何故か少女抑え込まれてしまった。
とても真剣な表情なので、ふざけているわけではなさそうだ。なぜ抑え込まれているのだろう。このままでは恩人の前で寝転がるトンデモ不届き大魔神が爆誕してしまうのだが。
「……ふっ」
少女を押しのける心づもりで腹筋その他を酷使してみた。が、微動だにしない。力負けしている。
ヒョロガリとはいえ190センチ近い男が、150センチあるかないかの少女に完全に力負けしているらしい。
そういえばさっき自分の体より数倍大きいハルバードをぶん回していた。なるほど細枝の如きヒョロガリなど取るにも足らぬと……泣いていいだろうか。
というか起き上がらないのを聞き分けがいいと勘違いしてそうな慈悲の表情で見られている。違います完全に筋力に負けてるだけです。
「えっと、説明が遅くなりましたが動かないほうがいいです。まだ解毒剤が聞いてるかわからないので」
「解毒剤?」
「はい。さっきのショッキングスコーピオンの」
ショッキングスコーピオン。日本語に訳せば……衝撃的蠍、にでもなるのだろうか。あまりにもドストレート命名すぎてちょっと腰が引けるが、まあわかりやすさ第一ならいいのかもしれない。
でもそれならショッキングカラースコーピオンではなかろうか。長いから略したんだろうか。致命的な略し方のミスを感じるけれど。
そしてその名称を聞いて、同時に確信を得た。
この世界は異世界である。少なくとも僕の知っている世界ではない。
諸事情あって、僕は毒を有するものには異常に詳しくなっている。『ショッキングスコーピオン』なんてインパクト抜群な外見と名前で覚えてない有毒生物などいない。
知らぬ間に発見されました、や未発見の新種ならば話は別だが、眼の前の美少女が秘境の現地人とかでもない限りまずありえないだろう。
それに異世界なら小柄な少女に力負けしてもおかしくないだろうし。というかそうであってほしい。
「と言っても異世界の方に通じるかどうか、私にもわかりませんけど」
第2話は本日20時更新予定です!!
第3話は明日7時、
第4話以降は毎週水曜7時更新予定です⭐︎




