2.5
※ユノス視点です
「あ、ユノスさん。今日もお願いできますか」
「おう、まかせな」
食料や木材、その他色々
人々にとって必要不可欠なものの宝庫である
ユラの森
ギルドに出される依頼はもっぱらその森に関する
ものばかりだ
そんな森で、ここ数年、少しずつ少しずつ
魔物の強さ・数が多く、強くなっている
注意していなければわからないほどの
ほんの少しの変化だ
でも比例して、犠牲者も少しずつ増えている
そこで、そこそこの腕を持つ俺に
見回りという役割が与えられた
「よう、リオラ、リヒト。調子はどうだ」
見回りをそろそろ切り上げようとしたとき
見馴れた2つの綺麗な顔があった
「ユノスさん、順調です!」
満面の笑みを浮かべてリオラが返事をする
その少し後ろで小さく会釈をしているのが
弟のリヒト。俺の親友だった男の子供たちだ
二人の足元には、低級だが倒すのが大人でも難しい
魔物の死体が3頭
相変わらず、桁違いの強さだ
連発しても、枯渇することのない魔力量
どんな魔法でも軽々こなし、繊細な魔力操作もできる
とっておきは、魔法を使用しなくても余裕で
生きていけるほどの剣の実力
2人の実力を知っている人々は
口を揃えて天才だという
元々の素質が違いすぎると
たしかに、否定はできない
だけど、2人の手を見れば
剣だこがつぶれて血が滲んだ後が
何個も残っているし、魔物に対する恐怖心は
実践を重ねないと、そう簡単に乗り越えられる
ものではない
実際に、リオラが7歳の頃なんて
一番討伐が簡単で、見た目もかわいらしい
魔物にもかかわらず、泣きわめき、逃げ出していた
きちんと努力して、悩み苦しんで
今の2人がいる
本来なら、ほとんどの14.15歳なんて
大人に守られて、楽しく気楽に安全に
遊び回っている。危険なんてものを知らずに
毎日を生きている
もし魔物を遠くからでも見つけることがあったら
それだけで失神するだろう
早くに父を亡くし、さらに2年後には母は病気で倒れ
12歳で、家族の大黒柱。家族の命を12歳が握っている
あまりにもハードすぎる人生
小さく、幼かった少女が、一気に大人になった
いや、成らざるをえない状況だった
そんな酷な状況に立たされている彼女にとって
唯一の救いがリヒトの存在
リヒトがいて、本当に良かった
リヒトがいたおかげで、重りになっていた
プレッシャーを、分け合うことが出来た
どんなに辛くても、互いに助け合って乗り越えられた
腐ること無く、潰れること無くやっていけてる
リヒトだって、辛かったに決まっている
姉弟で2番目だけれど、長男だ
11歳でリオラとともに大黒柱になった
リオラと同様、いや、リオラより1歳幼いうちに
大人にならなくてはいけなかった
そんな、そんな2人に、俺は何をしてやれた?
出来たことなんて、お金の援助だけ
それも、2人はどうしても苦しいときや
姉弟や母が病院に行かなければならないときのみ
の最低限のお金しか受け取ってくれなかった
このままでは、2人は本来自分達があるべきはずだった
当たり前の平和な日常を体験せずに
一生を終えることになるだろう
そんなの、許していいはずがない
少なくとも、俺は絶対に許さない
ただの自己満足
自分勝手な考えからの行動だけれど
後悔はしていない
特待生制度、頭の固まった御貴族様達への
説得は、なかなか骨が折れたけれど
リオラの笑顔、そして、普段あまり表情を
変えることのないリヒトの嬉しそうな笑み
…気づいてるぞ
それだけで、苦労が報われたどころか
お釣りが帰ってくるぐらいだ
俺の親友が何よりも大事にしていた
宝物たちが、全力で輝くための手助けを
惜しまないことを心の中で静かに誓って
雲ひとつない空に向かって笑みをもらした