第35話 音楽ナメんな
調律者の萩原 寧音に案内され、陽の光が射し込まない何処かの廊下を歩く。情報を見てみると、やはりここは地下らしい。
この世界の情勢を軽く整理しよう。
徳永 文哉と言う男が、ミュージカの齎す力の闇の側面に染まる事で音楽の最適化が成された。それは、音楽によって得る力の統一化。ジャンルを一つに絞り、その中で究極を見付けるべく技を磨き、音楽に対する姿勢も叩き込まれる過酷な環境が造り上げられた。やがて世界はディストピアへと変わり、自由な音楽を未だ望む者達が抵抗勢力を結成。音楽で勝つ為、命を駆けた戦いに身を投じる事となった。
何て言うか、凄まじい世界だなおい。
バトリスとは別ベクトルでブッ飛んでやがる。
「確かにミュージカのお陰で、様々な暴力行為は消えた。戦争は無くなって、音楽さえあれば食事すら必要無くなって、何時しか食は完全な娯楽へ変わった。あらゆる生命活動の糧を音楽にする代わりに、僕達は音の呪縛に囚われてしまった」
「それが、音楽以外の暴力行為を禁じられた事」
「そう」
「ナメた真似してくれやがってミュージカ……」
「……ミュージカは、残酷な神様だよ……こうなっても、争いは無くならないんだもん。大好きな音楽を暴力に使わなきゃいけないなんて……そんなの……」
「いいや。音楽は暴力だ。心に対する丸裸の暴力だ」
「それは君の好きな……!」
「良いか寧音。言ってはいけない事を言うが、所詮はただの波が作り出すモノだ。モノは利用される。それは糧であったり、道具であったり、何らかの手段として使われるんだ。金や手足、俺達が今こうして使っている言葉すらも、利用するためにある」
「……」
「それを変な事と思った瞬間、お前の力は失われる。さて、ここまで言って俺が何を考えてるか分かったか」
「……分かるわけ、ないでしょ……」
「……そんなんだから3年間無駄に命ばかり危険に曝すんだ」
「――ッ!」
おっと、胸ぐら掴まれちまった。
おいおい瞳孔開いてんぞ。
「これ以上やると消えるが?」
「……~~……ッ! 何で! 何でそんな事をポッと出のお前に言われなきゃならないんだよ! ッ!? は、離せ! 離せこの! 首裏引っ掴むな苦しい!」
「……俺が赴く世界で初めて会う人物には三通りある」
「またいきなり何!」
「一つ、魂を奪われる雑魚。二つ、何か適当に絡んだ後勝手に死ぬアホ。そして三つ――お前みたいな原石だ」
「……どう言う事……」
「お前の中には燃えても燃え切れないモノが眠ってる。何かが邪魔して外へ出し切れずに苛々ばかりを募らせるモノだ」
「……じゃぁ何、僕が本当は音楽を暴力に使いたくないって思ってるから、その力を十分に発揮出来ないとでも言うの」
「そうだ」
「それこそ何で異邦人のお前に言われなきゃならないんだよ! 僕だって、僕だって必死に……!」
「うちの学校では講師は皆こう言う。『努力の方向を間違えるな』、だ。検討違いの事ばかり頑張ってドヤってされても何のこっちゃなんだよ。お前今までどうやって戦って来た。真っ正面から勝負挑んでその度に負けたのか?」
「……」
「……えっ、まさかの当たり……?」
「……ぃ、いや、それ……は……」
この世界の抵抗勢力は皆こんななのか。馬鹿じゃねぇのか。何だってそんな普通に考えて無理だろうなって事をしてのけるんだこやつらは。
しかし今良い事を聞いたぞ。
そうか。真っ正面から挑んでも止められたりはしないんだな。ミュージカの特性を活かすとなると、なるほどこれは、確かに下手な策を打つより安い。だがそれではダメだ。最高のステージで、最高のライブでもって演奏して人々の心に働き掛ける他あるまい。良いだろう、それぐらいの工作程度なら容易だ。後は本物の技術でもって、俺が"狼煙を上げる"のだ。
「……諭されてるみたいで、恥ずかしくなってきたよ……」
「なに、もう少しで開花するんだ。頼むぜ調律者」
「その自信は一体何処から……まぁ、やれるならやるよ……君の事は嫌いだけど」
「嫌いで結構」
それから本部らしき場所へ行き、寧音の仲間と顔合わせ。また一曲幻覚を見せ、俺もお前らもこんなものではないとアピール。やはり何かを感じたのか、全員で俺の特訓に付き合う事になった。
半ばと言うか完全に虐めのような特訓だった。
音階の聞き当てクイズ(間違えると爆発)、感電ギター弾き(あまり効かない)、超絶爆音ドラム講座 (爆音には慣れてる)、全員の前で大声で歌う(下手評価が1つでも入ると爆発)、地上へ繰り出して語り弾きしながら逃げる、等々普通の人間だったら当たり前に死ねるメニューの連続。
「こんなんで本当にうまくなるんだからムカつくよな」
「僕が考えたカリキュラムだからね」
ものの20時間でマスターしてしまった。
何これ、こんな簡単に技術身に付くの?
もう超絶技巧まで出来るし、歌も完璧になりやがったし、人前に出るだけで音楽が込み上がって来るんだが。
「僕のカリキュラムに堪えられたのは君が初めてだよ。やっぱり何かが違うんだ」
「ああ、こんな頑丈な身体に熱い魂、枷を外した人間は恐いねぇ!」
「ハッ、どうだか! 俺様のテクにはまだ及ばねぇみてぇだがよ!」
「いいやこれは化物だぜ。デスレッスンを楽々クリアしやがるんだからな」
「期待大の男、神条 神鵺。遂に決戦の時か!」
何を言ってやがんだ。
今回ばかりは話が違う。俺の力じゃせいぜい文哉を妥当する程度。ミュージカを殺すには物足りない。俺が特訓したのは、音楽に乗せてある仕掛けを施す為のカモフラージュを完璧にする為だ。
「よし、お前ら楽器を常備して休んでろ」
「「「「「は?」」」」」
「一休みしたら決起だ、俺は用意がある」
実は特訓しながら色々とスキャンして作戦を練っていたんだよん。
ミュージカの正体は、言ってしまえば宇宙人。地上の更に上、天上のシップに居座っている。奴等は音楽パワーを与えているとこの世界は勘違いしているが、実際の所はただの暗示だ。奴等は音楽を目印に自分等の力を送り込んでいる。信仰を得る事で存在が強化され、魂のレベルが著しく上がれば生命の枠を越えられるようでな。奴等は上手い事神になりやがったんだ。それこそ、この世界内にいる存在をほぼ完全に抹消する事が出来るぐらいまで馴染んでる。
タネが分かってしまえば後は簡単だ。
音楽をこんなことに利用するナメた奴等に、この星の怒りを見せてやる。盤上は整った。駒も揃った。譜面の用意も出来上がった。
二日目の夜、隠れて用意した特設地下ライブ会場のど真ん中に俺は立っていた。ちゃんとギターを持っている。
近くにいるのは、隣で怪訝な顔をする寧音と、ベースの六助、ドラムの寛治。どいつも抵抗勢力の精鋭だ。皆不安そうな顔だな。
「ね、ねぇ神鵺……一体、何を……」
「んん? 抵抗勢力名乗っといて、ポッと出の俺とコイツらだけに任せる気か?」
「そんなこと無いでしょ。皆もちゃんと楽器の用意して、何時でも動けるようにしてるんだよ」
「どんなときでも、最高の音楽を、だ」
「お前の力、見せてくれ」
「あぁ、それで良い。その気概で頑張ってくれたまえ。その内この星の全員が謳い出す事になるんだからな」
「「えっ」」
「……それって……どう、言う……」
「さぁて? イベント開始まであともうちょいだ」
「うぉゎあ!?」
情報操作で機器を操作し、天井を開いて地上へ登り始める俺達。インターフェースを確認、よしよしちゃんと"全部繋がってる"な?
「何!? 何時の間にこんなの!?」
「良いか、こう言ったクーデター行為は、突然に行われるものなんだ」
「……そう言う事か」
「ってぇこたぁ……」
「これは……」
「「「ゲリラライブ!」」」
「Yes! That's light!」
急上昇!
地上のネオンが見えてきたぜ!
「さぁさぁさぁさぁさぁさぁ上がって来たぜぇ!?」
「登場は!」
「やっぱこうだよな!」
「ちょっ! まっ!」
「せぇーのっ!」
ライブは!
ジャンプから始まる!




