愛メーター:参
「華龍よ、嫁に…」
「いやだ」
何時ものやり取りだった。子供は今日も来た。
「なんじゃ?その本は?」
子供は急に横に来て、本を覗きこんできた。
今読んでいる本はかの有名な「ドラキュラ伯爵」だった。
「あぁ、友達のおすすめなんだ。」
「……妙な友じゃのう」
友達というのは、野山の事だ。確かに妙な奴だ。
しかし、以外とおもしろい。今まで読む種類が片寄っていたので、こういう本を読むのは新鮮だ。
「知っているのか?」
「まあ、わしの親戚が語られた本じゃからのう」
また、子供の冗談がでた。次は物語の生き物を親戚扱いだ。
「名前は違うぞ。ドラキュラとは洒落た名前にしよって」
本当は十字架もニンニクも利かないこと。
名前はマイクという名前のこと。
美女が好きな理由は早くお嫁さんが欲しいからということ。
無論、こんな冗談を真に受けるはずがない。
だが、聞き入ってしまう、不思議な魅力があった。
「あ、そうだ」
ふと思い出した。今、言うべきことじゃないが思い出したからには言うべきだと思った。
「なんじゃ?」
「お前の名前」
オッドアイの目が大きく見開かれた。
頬は僅かに紅潮している。
なんだ、自分から名をくれと言っていたのに。
「な、なんという…!?」
「クロ、真っ黒だからクロだ」
まるで犬か猫につける名前だが、それ以外にこの子供にぴったりなのがなかった。
きっと、この子に子供ができたら、黄色とか紫という名前になりそうだ。
しかし、子供は喜んで、それこそ空でも飛べるんじゃないかという勢いだった。
「クロ…、そうかクロか…!」
障子から漏れる月光が、子供をよけいにキラキラさせる。
こんな風に油断していたからだろうか。
私は父様の静かな足音に気付かなかった。
「通りで毎晩…」
「すみません、父様」
「にゃ」
口調はまるで怒っているかのようだが、案外父は機嫌が良かった。
おそらく、酒も入っているのだろう。
毎晩来ているのが、黒猫だとしたら叱るも叱れない。
小さな黒猫は父様にすりより、にゃんと鳴いている。
(こんなに見事に化けるとは…)
クロは次は私の方へ来た。すこし、不満げな顔をしている。
黒猫となったクロは驚くほどに完璧な猫だった。
妖怪の力が全く感じられない。というか、ただの猫だ。
「それでお前はこの猫と会話していたのかい」
私の膝に座った猫を見ながら父様は言った。
まさか聞かれていたとは。
「えっと…」
実は子供です、なんて言えない。
「なにかブツブツと言ってると思ったら、成る程」
父様の顔がすこし、緩んだような気がした。
まさか、父様に限ってそんなことは、と思いもう一度顔を見れば眉間にシワがよっていた。
「にゃあ」
クロがしっぽを揺らしながら膝から飛び降りた。
どうやら、もう変える時間らしい。今は父様の部屋だが器用に襖を開けていく。
見送りしようと立てば父様に制止される。
「龍騎は部屋に戻りなさい、見送りは私がしよう」
此処で逆らっても、悪いことしか起きないので、素直に従う。クロも顎を使って返れと言っている。
「さあ、早く帰ってくれ」
「荒々しいやつじゃのう…」
騎不は黒猫が喋っても驚かなかった。
ずっと前に気づいていたのだ、娘の部屋になにか異常な者が入ってきていると。
最初は様子見だったが、今では攻撃する気も失せた。
龍騎は知らないがこの屋敷の警戒はだんだんと高くなっている。それを簡単に通過するのだ。
それこそ化け物の所作だ。
黒猫はまず、子供に、そして青年になった。
成る程、だから龍騎は警戒を解いたのか。
「子供の姿はあの子ようかな?」
「無論、当たり前だろう」
美しい青年は何処からか煙管を取りだし、煙を吸った。禁煙なんだが、と思いながら、言葉を進める。
「つまり、あの子の秘密も過去も知っている」
「ああ」
余計に、攻撃する気が失せた。札を仕舞う。
「なんじゃ、殺らんのか?」
「今、貴方と殺し合いをしてもあの子は悲しむだけだ」
「……そうじゃのう、あの子を嫁にするときはお主の許可も取らねばならぬし」
紫色の煙がふわふわと闇夜に消えた。
そして、それと同時に青年も消えた。
騎不は静かに障子を閉めた。
夜風が涼しい。興奮した体を静めてくれるようだった。
龍騎の父と向かい合ったとき、ほぼ殺す気でいた。
だが、相手が以外と冷静だったせいでタイミングを逃してしまったのだ。
「……まあ、確かに彼処で殺すのは…」
明らかに自分がやったと言うものだ。
それはあの子も悲しむだろう。
自分の黒い羽をパタパタと動かしながら考える。
あの親は殺す必要はあるか、ないか。
答えは直ぐに見つかった。
あり、だ。
もう一度羽を動かす。このコウモリのような羽を自分は案外気に入っている。
マイクの真似事でもしようか。自分は心臓に杭を打たれたって死なないが。
騎不さん背後に気を付けて←
クロはコウモリとか猫とかによく化けます。
でも犬にも化けます。
黒くてオッドアイの動物がいたら、もしかしたらクロかもしれません。




