愛メーター:弐
ちょうど5時、いつも通りに起きた。
まだ外は暗いが、妖怪たちが出るような時間じゃない。
一日の睡眠時間は5、6時間。子供が着てから4時間になった。
だが、苦ではなかった。むしろ、前より楽になったような気がした。
鏡で自分の顔を見ると、少しやわらかい顔になったような気がする。
そういえば昨日、任務から帰ると蓬がそんな事を言っていた。
引き締めないと父様に怒られそうだ。
そんな事を思いながら、まだ寒い廊下を歩いていると、前から父様、水王院 騎不が来た。
よく、優しげだと言われるが、誰よりも恐ろしいことを私は知っていた。
特に、妖怪に関しては。
「おはよう、龍騎。」
「おはようございます、父様。」
もしそんな人にあの子供が見つかったらどうなるだろう。恐ろしいことだ。
前回のあの結界事件はなんとか収まったが、あの鬼のような形相はもう思い出したくも無い。
部屋に戻って、しばらく本を読んでいれば、使いの人が朝ご飯が出来たと呼んでくれた。
学校に行く準備はもう出来ているため、焦らなくてもいい。ただ、弟は違った。
「教科書!!何処だ!!」
弟の叫び声が聞こえる、名前は水王院 晴騎。私を女だと知っているが、何故男の格好をしているのかは知らない、純粋というか、馬鹿な弟だ。
「あ、龍騎、俺の教科書知らない!?」
「知らん」
晴騎は今、中学2年生だ。高校1年生の自分とは2つ違う。だが、私の身長より少々大きい気がする。
朝食を食べ終われば、あらかじめ置いておいた鞄に手をのばす。だが、それは父様によって止められた。
内心冷や汗をかく。いったいなんだろう。
「龍騎」
「はい」
「ご飯粒が付いてるよ」
父様の手に力がこもった。
『気が抜けているんじゃないか?』
言葉に出していなくてもはっきりと伝わった。
学校に着いた。朝練に励む同級生達が羨ましい。
私は部活動をしてないが、入るなら家庭部がいい。運動部だと自分の身長が仇となって不利になる。それなら始めから文化部でなにか作っていた方が楽だ。
「よお、水王院!」
ふいに頭の上から声をかけられた。それと同時に頭にのし掛かる重さ。あいつ以外にあり得ない。
「野山、重い」
「あー、ちょうどいい高さだったからな、すまんすまん」
その声には謝罪の意などまったく感じ取れなかったが、いつものことだった。
野山 健汰、同じクラスでそのなかでも一番背が高い。(ちなみに、私は一番背が低い)
よく、凸凹コンビたと言われるが本当にそうだと思う。
「おい、なにニヤニヤしてるんだ」
テニス部の爽やかさを持った整った顔を、彼はよく台無しにする。例えば今とか。
「いや?何時もより柔らかいなーって」
「…………は?」
「顔、隈が薄くなった」
妙なところで感がいい奴め。そう、心のなかで毒づく。
野山は妙な奴で、接点が出来たのは去年の夏だった。
無様に妖怪に襲われている野山を見つけた。
無論、直ぐに助けた。
すると彼は『友達になってくれ!!』と、強く頼んできたのだ。
父様に相談すれば、一人ぐらい友達がいていいかもしれない、と許可を下さった。
そんなこんなで関係は今も続いている。
「水王院」
「はい」
私はさらさらと数学の公式を言った。野山はなにもわからないと言ったようすだ。
「よし、合ってるぞ」
笑顔の数学教師、次は野山を当てるようだ。
当の野山は呑気に、明るい色のペンを回しをしている。
「では野山、ここは?」
「へっ!?」
(あっ、ペンが落ちた)
野山の回していたペンを目で追う。
フローリングに当たると高い音がした。
跳ねて、もう一度床に当たりに行く。その時、黒い影が、見えた。
その黒い影は野山のペンをキャッチすると、異常に素早い動きで逃げていった。
ぼーとした頭が一気に覚醒する。
「先生、頭痛がするので保健室に行ってきます」
そう言って足早に教室を出る。
先生の制止なんて耳に入ってこなかった。
(くそ、何処だ)
先程の黒い影を見失った。思った以上に、素早く、私は廊下に一人残された。
腕時計を見れば授業の終了時刻だった。そろそろ戻らなければ。そう思って踵を返す。
(いったい何故あの影はペンを盗んでいったんだ?人間のものだからか?いや、それならもっとチャンスはあったはずだ。)
野山のペンは明るい色で光に当たれば光ったように見える。さっきは、それが綺麗でつい、目で追ったのだ。
(光るもの?ならば、動物系の妖怪か?)
ふと、足を止めた。違和感を感じる。
私は壁に傷をつけた。そしてまた歩き出す。
(……やっぱり、そうか)
つけた傷がまた同じように目に飛び込んできた。
急いで札を取り出す。
内心、しまったと舌打ちをした。何故、気付かなかったのだろう。
「……何処の何方か存じ上げませんが、相当上級の妖様とお見受けしました。どうかご返事頂けませんか?」
返事はない、だが、空気が段々と冷たくなるのを感じた。
カツ、カツ、カツ…。
足音が近づいてくるのも分かった。
札の中の式神が震えているのが伝わる。だが、子供の時のように出てこない事は無さそうだった。
「お返事頂けませんか?」
『………なら、先ずはその手をよかしてください』
若い、女の声だった。宝塚のようにはっきりした声だ。
「ご用件は」
『貴方が彼と関わらなくなることです』
冷たい刃が背中に当たっているのを感じる。
「もし、無理なら、貴方の命を終わらすだけです」
振り向けば顔が見えるだろう。が、殺されることは確かだ。
しかし、彼とは誰だろう。こんな上級の妖怪と関わりのある「彼」が見えてこない。
「妖様、恐らく人違いでは…」
「残念ながら貴方です、お陰で彼は…!!」
怖いぐらいの憤りを感じる。刃が今にも私に斬りかかってきそうた。
だが、しかし、分からない。
ふと、あの子供を思い出したが彼と言うには幼すぎる。
「妖様、その彼の御名前は…?」
「彼は「気まぐれ」と呼ばれています。または「ハロウィン」と」
其ならば余計にあの子供は違う。あの子は名前がない。
もう一度、違うと言おうとしたときに、急に女の声が苦しみ始めた。
「そ、んな…!
お兄様…やめっ!」
刃が背中から離れたのを見計らって構えながら振り向く。
しかし、そこには何もなかった。
「野山!」
「お!水おう、いん……
お、俺のペン!!」
野山はペンをひったくるように取ると、またくるくるとペンを回し始めた。
黒い影はあのあと直ぐに見つかった。どうやらカラスの霊らしく、巣の材料となる物を集めていたらしい。
準備室で見つけたハンガーと交換に野山のペンを貰った。
ここ最近はそういった動物の妖や霊が増えてきた。
今日のあの襲撃は以外だったが、その他は特に何時もと変わらない1日だった。
………忙しくなったな。
下駄箱の前でしみじみとする。
今日はあの子供はくるだろうか。
野山が「水王いーん!!」と手を振りながらやってきた。
あー、思った以上に長くなりました(´Д`)
テーマは水王院の日常ですが…なんか違う←
そんなこんなで2話しゅーりょーです!
ありがとうございました!