93/204
静かな朝
北海道の朝は、まだ冬の匂いが残っていた。
店に入ると、結衣が明るく挨拶をする。
「おはようございます、大和さん」
その笑顔はまっすぐで、温かい。
けれど、大和の胸は不思議と動かなかった。
「おはよう」
短く返すと、結衣は少しだけ寂しそうに笑った。
その表情に気づきながらも、踏み込むことはしない。
(……悪い子じゃないんだけどな)
結衣の優しさは心地よい。
でも、そこに“恋”の形は見えなかった。
誰かと一緒にいる未来を想像してみる。
結衣となら、穏やかに過ごせるかもしれない。
けれど——
胸の奥が、静かに拒む。
(俺は……一人でいい)
そう思うたび、
自分でも説明できない“空白”が、
ふっと胸の奥に影を落とした。




