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決意②
深夜の廊下。
自販機の明かりだけが、
ぼんやりと床を照らしていた。
俊介が戻ってくる気配がして、
葵は顔を上げた。
「葵、これ……あったかいの買ってきた」
差し出された紙コップ。
その温度が、
じんわりと指先に染みていく。
「ありがとう……俊介」
そう言うと、
俊介は少しだけ安心したように笑った。
「無理すんなよ。
俺は……ずっとそばにいるから」
その言葉に、
葵の胸がきゅっと締めつけられた。
(私は……この人と生きていくって決めたんだ)
決意は確かにある。
嘘じゃない。
でも——
心の奥の、
触れたくない場所が
まだ静かに疼いていた。
母の寝息。
俊介の優しさ。
病院の静けさ。
全部が、
葵の決意をそっと包み込むようで、
それでもどこかで
“何かが足りない”と囁いていた。
(大丈夫。
私はもう揺れない)
そう言い聞かせるように、
葵は紙コップを強く握った。




