重なり始める空気
小樽駅から灯-OTARU-へ向かう道を歩く。
胸の奥がずっとふわふわしていた。
店の前に着くと、
ガラスに映る自分をそっと覗き込む。
新しいワンピースの裾を軽く整え、
前髪を指先でふわっと直す。
(……よし)
小さく息を吸って、ドアを押した。
カラン、とベルが鳴る。
前回の弾丸訪問とは違う。
今日は“選べる”。
その事実だけで胸が弾んだ。
クリームソーダ。
プリンアラモード。
二色のパンケーキ。
ちょっと頼みすぎかな、と思いながらも、
前回の“コーヒーだけ”の悔しさが背中を押す。
注文を終えてしばらくすると
視線の先に大和が現れた。
トレイを持つ手が、
ほんのわずかに強く握られているように見えた。
(……店長)
大和はトレイを置いたあと、
ほんの一瞬だけ葵を見つめた。
その目が、
驚いたように、でもどこか安心したように揺れる。
「……来てくれたんだ」
言ったあと、
ふっと息がほどけるみたいに、
大和の口元がやわらかく緩んだ。
その“ふわっと笑う”瞬間が、
胸の奥にじんわり広がる。
「お待たせ。
夜の予約、入れてあるよ。
21時から23時まで。
22時から……プラネタリウムになるよ」
言葉はいつも通りなのに、
どこかゆっくりで、
ひとつひとつ確かめるみたいだった。
その笑顔の余韻が残っていて、
葵は胸が熱くなる。
「……嬉しいです。
すごく……楽しみです」
大和はまた、
ほんの少しだけ目を細めて笑った。
「よかった」
その一言が、
昼の光よりも温かかった。




