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プロポーズ
その夜。
俊介は葵を家まで送り届けた。
玄関の前で、
葵は小さく頭を下げた。
「いつも……ありがとう。
俊介がいてくれて、助かってる」
その言葉が、
俊介の胸に深く刺さった。
(助かってる……か)
それは“必要としている”とは違う。
“愛している”とも違う。
でも——
それでもいいと思った。
俊介は静かに息を吸い、
葵の手を取った。
「葵。
俺……葵と一緒に生きたい」
葵の目が揺れた。
「お母さんのことも、全部。
俺が守りたい。
だから……結婚しよう」
葵は言葉を失ったまま、
俊介を見つめていた。
その瞳の奥に、
迷いと痛みと、
そして——消えない影があった。
俊介は分かっていた。
葵の心のどこかに、
まだ大和がいることを。
それでも、
葵を守りたいと思った。
(たとえ俺が“代わり”でもいい。
葵が笑えるなら、それでいい)
夜風が静かに吹き抜ける中、
葵は震える唇を開いた。
「……俊介……」
その続きは、
まだ言葉にならなかった。




