大和の最終日
最終日。
店内は、これまでで一番の熱気に包まれていた。
スタッフの声、
シェイカーの音、
グラスの触れ合う音。
(……ありがたいな)
忙しい。
でも忙しいのが嬉しい。
この数週間で「夜の灯 -tokyo-」は、
想像以上の反響を呼んだ。
SNSでは“縁結びのバー”と呼ばれ、
連日行列ができている。
ふと、胸の奥に小さな痛みが走る。
(来たいのに入れないお客様も多いんだよな……)
整理券が取れずに帰る人。
仕事終わりに駆けつけても間に合わない人。
せっかく足を運んでくれたのに、
申し訳ない気持ちが残る。
(期間……延長すべきなのか)
そう思う。
でもすぐに現実が頭をよぎる。
仕入れ、
人員配置、
次の出店地の契約、
広報のスケジュール。
(……俺には決められない)
延長は上層部の判断だ。
現場の責任者であっても、
自分の一存ではどうにもできない。
だから、
今日が本当に“最後”だと思っていた。
(……来てくれたら、キールを置こうと思ってたんだけどな)
「最高のめぐり逢い」
(本当に……そう思ったんだよ)
18年越しの再会。
昼の驚いた顔。
夜のグラスホッパー。
全部が、
静かに胸に残っている。
今日も、
外の行列を見る暇はない。
(……来れなかったか)
胸が少しだけ痛む。
閉店時間。
店の灯りがゆっくり落ちていく。
(これで……終わりかもしれないな)
そう思いながら、
最後のグラスを拭いた。




