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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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グラスホッパー

店は大盛況で、

大和はカウンターに立つ暇もない。


スタッフが忙しそうに動き回り、

葵のテーブルにも別の人が飲み物を運んできた。


(……いるのに…会えない)


視界の端に、

黒いシャツに黒エプロンの背中がちらりと見える。


昼とは違う、

“夜の大和”の姿。


照明に照らされる黒が、

大和の動きをより静かに、

より大人っぽく見せていた。


でも距離は遠い。

声も届かない。


それでも、

大和の手元に“注文票”が渡る瞬間だけは見えた。


その紙に書かれた文字。


「グラスホッパー」


大和の手が、

ほんの一瞬だけ止まった気がした。


(……気づいた?)


分からない。

でも、

気づいてほしいと思ってしまった。


---


店を出ると、

夜風が少し冷たかった。


胸の奥が、

前回とは違う理由で痛む。


(……ありがとう、幸せです、って言いたかっただけなのに)


それだけなのに、

どうしてこんなに苦しいんだろう。


葵はゆっくりと歩き出した。


夜の灯りが、

背中のほうで静かに揺れていた。


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