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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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向かい合うグラス

大和が部屋に戻ると、

空調の音だけが静かに響いていた。


スーツの上着を椅子に掛け、

ネクタイを外す。


立呑屋で飲んだ一杯が、

まだ喉の奥に残っている気がした。


ふと、

スマホを手に取る。


通知は……特にない。

でも、開いてしまう。


タイムラインを指でゆっくりと滑らせたとき、

見慣れた名前がふっと目に入った。


aoi


写真が一枚。

キッチンの柔らかい光。

左側に寄せて置かれたビールのグラス。


#今週もおつかれさま

#たまにはいいよね


大和は、

息をひとつだけ飲んだ。


……左側。


自分の投稿は、

右側に寄せて撮った。


向かい合うように置かれた二つのグラスが、

画面の中で静かに並んでいる。


乾杯の構図だ。


偶然かもしれない。

意図なんてないのかもしれない。


でも──

胸の奥が、

じんわりと熱くなる。


> ……及川さん。


声にならない名前が、

喉の奥でほどけた。


彼女がビールを飲む姿なんて、

想像したことがなかった。


仕事帰りに、

ひとりで、

こんなふうにグラスを置いて写真を撮るなんて。


そして、

“たまには”という言葉が

自分の投稿と重なる。


偶然にしては、

できすぎている。


大和はスマホを持つ手を

そっと膝の上に置いた。


画面の中で、

二つのグラスが向かい合っている。


距離は遠い。

会ってもいない。

言葉も交わしていない。


なのに──

触れてしまった距離が、

また少しだけ近づいた気がした。


大和は、

小さく笑った。


> ……おつかれさま。


誰にも届かない声で、

そっと呟いた。

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