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灯りのフィルター
「おかえり」
葵の声は、昨日までと同じはずなのに、どこか遠く聞こえた。
俊介は靴を脱ぎながら、胸の奥がきゅっと縮むのを感じる。
違うのは葵じゃない。
自分の目のほうだ。
大和の落ち着いた笑顔が、葵の横顔に薄く重なる。
そんなはずないのに、勝手に重なってしまう。
葵がスマホを手に取る。
その指先を見ただけで、胸がざわつく。
……最近、よく見てるよな。
言葉にしたら壊れそうで、口を閉じる。
「今日、仕事どうだった?」
葵が笑う。
その笑顔に、また大和の影が差す。
俊介は気づいてしまった。
自分の視界に、フィルターがかかってしまった。
疑いたくない。
疑う夫にはなりたくない。
葵の夫は俺だという自負がある。
だからこそ、聞けない。
聞いたら終わる気がした。




