前へ目次 次へ 3/204 越えてはいけないライン 大和が立ち上がったとき、 ふと、彼の左手に光る細い指輪が目に入った。 ――あ、この人は結婚しているんだ。 その瞬間、 葵の心に一本の線が引かれた。 越えてはいけない線。 踏み込んではいけない距離。 大和の優しさは、 店長としてのもの。 自分に向けられた特別ではない。 そう言い聞かせるほどに、 胸の奥が静かに揺れた。 それでも、 その線の向こう側から届く大和の優しさは、 葵の心をそっと温め続けた。 大人だな、きっとなんでもできるんだろうな。