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越えてはいけないライン
大和が立ち上がったとき、
ふと、彼の左手に光る細い指輪が目に入った。
――あ、この人は結婚しているんだ。
その瞬間、
葵の心に一本の線が引かれた。
越えてはいけない線。
踏み込んではいけない距離。
大和の優しさは、
店長としてのもの。
自分に向けられた特別ではない。
そう言い聞かせるほどに、
胸の奥が静かに揺れた。
それでも、
その線の向こう側から届く大和の優しさは、
葵の心をそっと温め続けた。
大人だな、きっとなんでもできるんだろうな。
この日、自分の中に引いた“境界線”
後になって静かに揺らぎ始めることを
葵はまだ知らない。




