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崩れ落ちてしまう瞬間
寝室のドアが少し開いていて、
そこから漏れる柔らかな光が廊下に落ちていた。
俊介がそっと覗くと、
葵がベッドの上でスマホを見ていた。
画面の光が頬を照らし、
その瞬間——葵はふっと微笑んだ。
その笑顔は、
俊介が最近見ていない表情だった。
優しくて、柔らかくて、
どこか懐かしい光を帯びている。
でも、それは俊介に向けられたものではない。
胸の奥が、静かに崩れ落ちる。
(……ああ、もう……俺じゃないんだ)
葵は踏み出さない。
そんなことは分かっている。
でも——
心はもう、自分のところにはない。
俊介はドアを閉めた。
音を立てないように。
気づかれないように。
廊下の暗闇の中で、
ひとり、立ち尽くした。




