前へ目次 次へ 21/204 新しい恋をしようとして 居酒屋「灯(あかり)」を辞めた翌週。 葵は大学のキャンパスを歩きながら、 胸の奥にぽっかりと穴が空いたような感覚を抱えていた。 (これでよかったんだよね) 自分に言い聞かせるように、何度もつぶやいた。 大和の妻が病気だと知ったあの日から、 葵は自分の恋を“封印”するしかなかった。 ――不倫なんて絶対にしない。 ――病気の奥さんから夫を奪うなんて、もっと絶対にしない。 その信念は、葵の中で揺るぎなかった。 だからこそ、辞めるしかなかった。