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家の灯り
大和の家は、駅から少し離れた静かな住宅街にあった。
夜になると、窓から柔らかな灯りが漏れ、
その光は“帰る場所”の温度をそっと示していた。
大和はその灯りを見るたび、
胸の奥が少しだけほぐれるのを感じる。
今日も、美咲が待っている――
そう思えるだけで救われた。
玄関の扉を開けると、
ふわりと味噌汁の香りが漂った。
「おかえり、大和さん」
キッチンから顔を出したのは、
大和の妻・高田美咲。
30歳を少し過ぎたばかりの彼女は、
派手さはないが、穏やかで優しい雰囲気をまとっていた。
「ただいま。無理してないか?」
「ううん。今日は調子いいよ」
美咲は笑った。
けれど、その笑顔はほんの一瞬だけ揺れた。
大和はその揺れを見逃さなかった。
靴を脱ぎながら、
彼の胸に小さなざわめきが広がる。
(大丈夫って言うけど……)
言葉にはしない。
不安を口にしたら、彼女がもっと心配するから。
大和はそっと息を吐き、
いつも通りの声で「よかった」と返した。
その灯りの下で、
ふたりの時間は静かに流れていく。
けれどその温かさの奥に、
まだ名前のつかない影が、
確かに揺れていた。




