16/204
知らされた現実②
大和の妻は病気と闘っている。
そんな人から大和を奪うなんて、絶対にしてはいけない。
不倫なんて、絶対にしてはいけない。
葵の中の倫理観が、強く、強く叫んだ。
(私は……この人を好きになってはいけなかった)
涙がこぼれそうになり、葵は慌てて視線を落とした。
「……店長。奥さんのこと、どうか……支えてあげてください」
その言葉を言うのに、胸が裂けるほど痛かった。
大和は、少し驚いたように葵を見つめ、
やがて静かに微笑んだ。
「もちろんだ。ありがとう、及川さん」
その笑顔は、葵の心を優しく、しかし残酷に締めつけた。
(私はこの人を好きだけど……
この人の幸せを壊すようなことは、絶対にしない)
その夜、葵は帰り道で泣いた。
恋を自覚したばかりなのに、
その恋を自分の手で封じなければならない現実が、
あまりにも苦しかった。




