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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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さよならの理由③

その優しさが、葵にはつらかった。


「……はい」


声が震えた。


事務所を出るとき、

大和が小さく呼び止めた。


「及川さん」


振り返ると、

彼は少しだけ寂しそうに笑っていた。


「また、いつでも顔を見せに来いよ」


その一言が、

葵の心に深く刻まれた。


店を出た瞬間、

葵の頬を涙が伝った。


――好きになってはいけない人を、好きになった。

――これ以上、一緒にいてはいけない。

――きっと…まだ間に合う。

――だから、今ここを離れなきゃいけない。

――この選択は間違ってない。


夜風が、涙を冷やしていった。


離れなきゃいけない。

越えてはいけない“境界線”を守るために。

そう言い聞かせても、

胸の奥ではその線がかすかに震えていた。

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