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さよならの理由③
その優しさが、葵にはつらかった。
「……はい」
声が震えた。
事務所を出るとき、
大和が小さく呼び止めた。
「及川さん」
振り返ると、
彼は少しだけ寂しそうに笑っていた。
「また、いつでも顔を見せに来いよ」
その一言が、
葵の心に深く刻まれた。
店を出た瞬間、
葵の頬を涙が伝った。
――好きになってはいけない人を、好きになった。
――これ以上、一緒にいてはいけない。
――きっと…まだ間に合う。
――だから、今ここを離れなきゃいけない。
――この選択は間違ってない。
夜風が、涙を冷やしていった。
離れなきゃいけない。
越えてはいけない“境界線”を守るために。
そう言い聞かせても、
胸の奥ではその線がかすかに震えていた。




