ドキドキ♡婚約発表しちゃいます!
正月、酒をしこたま飲んだ翌朝、この小説がメモ帳に書いてあった。
わたしの名はメルティ。クリーム色のツヤツヤお肌に、フランボワーズマカロンカラーの髪がなんとも愛らしく、愛らしい、狂おしいほどに愛らしい女の子。
別にナルシストっていうわけではないのよ。ただ事実を述べたまで。
まるでこの世の祝福全てをその身に宿して生まれ落ちたかのごとく、全ての女の子の憧れや夢を肉体で表すかのごとく、天使のごとく、妖精のごとく可愛らしいわたしに、ただ一つ欠点があるというならば、それは下賤の血が流れていることくらい。
「ああ、神様。どうしてわたしは庶民の血を流しているのに可愛いの? こんなに可愛いと、ブスどもに嫉妬されていじめられるに決まっているわ……」
豊かな大陸の中央にある王国立テンサイ学園。選ばれし天才と金を持った貴族のみが通うことを許されるこの学園に入学を控えていたわたしは、ボロっちく野暮ったく古臭い、わたしにはとてもとても不釣り合いな平民鏡に向かってうるうるの瞳で訴える。
「ああ、神様。わたしが可愛いから試練をお与えになるのね。けれど神はこのルックスで解決できない試練など与えたりしないはず。なぜなら神も、可愛くて美しいこのわたしのことが好きだから!」
選ばれしルックスの天才のわたしが、まさかテンサイ学園にルックス特待生として入学を許可されるなんて思いもしなかった……なんてことはないけれど、いじめられる悲劇のヒロインルートに立たされたわたしはこうして不安を胸に入学式当日を待っていたのであった。
――だが、
全ては杞憂! まさに杞憂なのである!
キューーートなわたしがスクールカーストの頂点に立つまで、さほど時間はかからなかった。
下賤な血などなんのその、美女コンテストで優勝して貴族に一目惚れされて嫁になった母と同様に、シンデレラとは常に成功するもの。シンデレラは遺伝するのだ。ただ、パパは貴族といっても万年ジリ貧。オンボロ屋敷の主人だったのは、母にとっても誤算であったようだけれど。
「アーハッハッハッハ! くるしゅうないわ! 良い産まれのクセして、その血にそぐわぬブスども! わたしを敬うといいわ!」
「ああ、麗しのメルティ様!」
「天使すら従える可愛いの神!」
「もう私たちの手には負えない、そして届かない」
「それは、まさに宇宙。人類にとって可愛いとは、メルるんの誕生と同時であった」
人は生まれた時から、決まった運命の道筋を歩む。わたしのキラキラ歯車は狂うことなどない。
約束された『勝利』
それは老いても尚美しい祖母のルックスが証明しており、貧しくも美しい母も証明しており、そしてボロの鏡ですら国宝のように煌めかせるこのわたしのルックスが証明しているのだ!
クラスの者どもは皆このわたしにひれ伏した!
美貌、それこそが力。掌握せしもの。パワーなのよ。
み~んながわたしのことを好き! み~んな、わたしが可愛くてしかたない!
こうしてわたしは玉の輿に乗るの。格上の貴族に求婚されて……
~ Happy End... ~
しかし、残酷な世界は突如としてわたしを包み込む。
――絶望! それはまさに、絶望!
「メルティさん、あなたは本日をもって退学となります。ルックス特待生制度は本日をもって廃止となりました。時代はルッキズムを許さない」
衝撃。驚愕。そして憤怒。
「先生、わたしの顔を見てくださいませ」
「はい。あなたは世界で一番可愛らしい。しかし退学です。もしくは入学から今日までの分はもちろん、今年分の学費を今すぐ納めてください。本日中に入金が確認できれば、とりあえず1年は生徒として認められます」
ようやく学園中のブスどもを掌握したというのに、なぜ?
こんなの横暴だわ、横暴よ。
「そうよ。こんなの横暴だわ、横暴よ」
何がルッキズムよ。それならブス特待生でも作って平等に扱えばいいじゃない。平均顔特待生も追加すりゃいいじゃない。
憎悪にギリギリと歯ぎしりをして悔しがる貧しくて可愛くて可哀想なわたし。
運命の歯車は狂いだした。この世には金・人望・ルックスの三要素が必要なのだと痛感させられる。
そんなわたしのために、職員室のドアを開ける男がいた。
もっさりとワカメみたいに髪を垂らした陰気野郎。あだ名は呪いの公爵。名前は確かディーターだったかしら。
ディーターは公爵家の跡取りでこの学校でも王家や留学生の王家、ぽっと出の王家、古の王家などの次くらいにはお金持ちだ。
このディーターという男が、わたしは苦手だ。そして同時にありあまるその財力から気にもなっている。
髪がもっさりしていて暗いし、何より無口でわたしをクラスで唯一褒めなかった。
「お金持ちって、好きよ」と、誘惑したわたしと目も合わさず読書を続け、呪文のような言葉をぼそぼそ呟く様は不気味で、正直怖かった。
呪いの公爵子息。いずれ公爵となる方。ただただ怖い。
陰気野郎なんて思っていても、この可愛いわたしにさえ口に出すことは憚られた。彼を攻撃したとみなされた瞬間、呪われるかもしれない。この顔に特化したわたしの肌に傷をつけられでもしたら生きていけない。
「ディーター様、まさかわたしを嘲笑い、金で釣って無理矢理愛妾にでもするつもりで来たの? わたしが、可愛いから?」
「あっ……あの……はい? いえ……はら……ます……」
「はあ?」
「払い、ます……お、推しの学費とか……お、おお、お布施っていうか、払います俺、払うのでその、いや、相性? そんなことは、あ、あ、き、キモいですよね俺、ははっ、なに言ってんだろマジでキモいな俺ほんと無理スギィ草も生えないていうかメルた……メルティさんとおおおおおおおおお付き合いとか絶対無理ですしお寿司でして候」
呪文の一部を聞き取ったわたしは、ディーターを信じられないというような目で見る。
「はあ? わたしと付き合いたくないって、そんなのありえないわ。そんな人は、いない」
断言したわたしの言葉などまるで聞いてもいないのか、教師はそれについて一切触れずに淡々と口を開いた。
「トラブルを避けるため、ご家族やご親戚以外からの金銭の受領はできません」
教師の言葉に、ディーターが「はぇぇ……詰んだ……」などと諦めの感情をにじませる。しかし、わたしは咄嗟にその冷たい男の手を握った。
「か、家族になります! わたし今からディーター様の妻です!」
こうして、わたしは呪いの公爵(子息)の妻になりました。




