二〇四四年八月十一日(木) 二十一時二十分四十六秒 地天海本部総帥執務室
「――セリナちゃん。マオリ君が逝ったわ」
静まり返った執務室で、理緒が静かにモニターに向かって話しかける。
「時間は掛かったけど、完全に補足したわ。詳しい場所は今送った通りよ。既に待機済だとは思うけど、行くなら止めないわ。あなたの気が済むようにやりなさい」
理緒は感情のない声で、モニター話し続ける。
「ううん、いいのよ別に。大丈夫、私は総帥よ? こっちは私がなんとかするから。そう……。うん、頑張ってね。ええ、うん、そう。――さようなら、セリナ」
理緒は通信を切断する。
「――一心。マオリ君が逝ったわ」
「ええ、聞こえておりました」
「そう……」
理緒がうつむいて無言になる。
「……お茶をお入れしましょう。ちょうど、良い茶葉が手に入ったので、ご用意致します」
そんな理緒に気を使ったのか、一心の方から理緒に話を振る。
「いいえ、お茶はいいわ。それより疲れたから今日はもう寝る事にするわ」
「……分かりました。では私はベッドメイクをして参りますので、その間にシャワーでも浴びてきてください」
理緒の言葉を受けて一心は一礼し、執務室から退室しようとする。
「待って一心」
理緒が呼び止める。
「……一心はさ、思考と心が一致しない時ってある?」
「どういうことですか? 仰る意味がイマイチわかりませんが」
理緒の問に一心は首を傾げる。理緒の表情からどうやらかなり本気の問であることは分かるのだが、いかんせん抽象的過ぎて答えようがない。
「ううん、ごめん。いいの気にしないで。ちょっと気になっただけだから」
理緒は自分でも分からないのか困ったように首を振る。
「そうですか。では私はこれにて……」
「あ、待って一心」
理緒は再度引き止める。
「ねぇ、一心。今日は貴方の部屋で寝てもいいかしら?」
理緒は一心を見つめながら、どこか甘えた声で提案する。
「……もう子供ではないのですから、ご自分のお部屋でお休みください。その歳で一人で寝られない、では困ります」
だが一心は感情を感じさせない声で、淡々と理緒の提案を拒否した。
「厳しいのね、一心」
理緒は寂しそうに笑う。
「じゃあ自分の部屋で寝るから、少しの間、私とおしゃべりに付き合ってくれないかしら? 話題は……そうね、一心の昔話が聞きたいわ」
「そんな何の面白味もない話を聞いてどうするのですか」
「いいじゃない。好きなのよ、そういう話。ね?」
理緒が一心の瞳を真っ直ぐに見つめてお願いをする。
口調こそ穏やかだが、その瞳には梃子でも動かせそうにない、強い意志を感じる。
「……分かりました」
その様子に説得は無理と悟ったのか、一心は諦めて理緒の要求を飲む事にした。
「ではそのまま寝室でお待ちしていますので、寝る準備を整えておいてください」
「ええ、楽しみにしているわ」
そう言って理緒は退室する一心を見送った。
理緒以外の人間がいなくなり、執務室に理緒一人きりになる。
「寂しいよ……」




