EP14:特定
電話して十分ほどすると、Tシャツにジーンズというラフな格好でクオンが入ってきた。寒太が「好きなものを注文しろ」とメニューとマークシートを渡すと、クオンは「何でもいいのかい?」と適当にマークしていく。
鉛筆でステーキセットがマークされたマークシートを渡されると、真玄は渋々プリペイドカードと共に機械に通す。外を見ると、既に陽が沈みかけている。
「……で、聞きたいことって?」
ジュースを取ってきたクオンは、ドカッと寒太の隣に座る。そして、コップ半分ほどジュースを飲み干した。外は暑かったのか、クオンの額からは汗が滴っている。
「最近、二回ほど爆発があったのは知っているだろう?」
寒太が言うと、「そういえばあったね」と他人事のようにクオンはつぶやく。寒太は二回あった爆発の事件について、簡単に説明をした。最初は音と煙だけ、二回目は建物の一部だけ壊れていた。いずれもこの街ではそれなりの高さのビルであることも付け加える。
「それでさ、爆発した建物の場所から次に犯人が爆破する場所について意見を聞きたいんだけど……」
真玄はたたんでいた地図を広げ、クオンに見せた。クオンは「なるほどねぇ」と、丸を付けた場所に注目する。
「犯罪者の心理としてはどうだろう? 専門ではないのは分かるが、何か意見を聞きたいところだが……」
「犯罪者、と言われてもねぇ。単純に僕の考えになるんだけど……」
残っていた最後のポテトを一つつまみ、クオンは続ける。
「爆弾魔が建物を爆発させる動機としては、いくつか考えられるんだ。それを考えれば、ある程度見当がつくんじゃないかい?」
「ほぅ、と言うと?」
「まず一つ目、個人的な恨みによる犯行。恨みがある人物がいて、その人物に関連する建物を爆破していくパターンさ。つまり、恨んでいる人物が分かれば、犯人がどこを爆発させようとしているか、大体見当がつく」
「なるほど、そういったことを考えれば、いろいろ予測ができそうだ」
寒太は「さすがだ」とつぶやきながら、少し冷めたピザを手に取った。
「二つ目は芸術性や、自らの才能を見せつけるための犯行。ほら、爆発させた場所で文字を作ったり、建物を爆発させることによって何かを作ろうとする犯人っていない?」
クオンに尋ねられ、太地は「うーん」と首をひねる。
「うーん、ドラマとかアニメとかでしか見たことないなぁ」
「実際は見たことがないから分からないけど、そういうことをする犯人かもしれないね。もしくは、自分はこれだけ凄いことができる、ということを見せつけたい欲求を持っているとかね」
「あー、なんとなく分かるよ」
太地が頷いていると、クオンが注文していたステーキセットが出来たようだ。沙羅がボックスから取り出し、クオンに手渡す。ステーキソースが鉄板で焦げるいい匂いが、テーブルいっぱいにひろがった。
「三つめは誰かに対する挑戦。ほら、ドラマなんかじゃ、警察に暗号を送ったり、なぞなぞを仕掛けたりして、次に爆破する建物を探させるっていうの、あるでしょ? そういうことも考えられるよね」
「たしかに。でも、この世界じゃそんな挑戦を受ける人がいないから、その可能性はないかな」
真玄がそう言うと、「まあ、可能性の話だから」とクオンは付け加えた。
「四つ目は、建物に対して恨みがあったり、コンプレックスを持っていたりするパターン。これも、最初と同じように、どういう建物が爆破されているか関連が分かれば、見当が付きやすいね。最後に、単純に爆発しているところを見ることに興味があるパターン。建物なら何でもいいわけだから、パターンというパターンはないと思うよ」
「なるほど、参考になる」
寒太はクオンの言うことを踏まえ、改めて地図を見てみる。
「……とはいえ、爆破された建物の特徴っていっても、せいぜい五階くらいのこの街では比較的高い建物……くらいしか」
真玄も考えてみるが、まるで目星が付かず、ただうーんとうなっているだけだ。
「そうかな? もう一つパターンが見えてくると思うけど?」
全員が頭を悩ませる中、クオンがステーキ肉をほおばりながらにやけた顔を見せる。思わず、全員がクオンに視線を向けた。
「最初の話を聞く限り、犯人は段階を踏んでるよね。最初は音と煙、次は一部崩壊。とすると、そろそろ全壊させてきてもおかしくない。まあ、もう一段階なにかあるかもしれないけどね」
「……! なるほど」
「それと、爆破する建物についても、何も法則がないとも思えない。例えば、爆破された二件の建物を線で結んで、それを延長させていくと……」
クオンは鉛筆で、丸で囲った場所を結んでいる線を伸ばす。フリーハンドとはいえ、綺麗な直線が地図に描かれていく。
「これは……麻衣が入院した病院!?」
クオンが結んだ直線がぶつかる大きな建物、それは、恐らくこの街で一番大きいと思われる大病院だった。
「これじゃないかな? 犯人が最終的に爆破したいと思っている建物。間にも、爆破におあつらえ向きなビルがいくつかあるみたいだし」
「もしそうだとすると、次に爆破される建物の見当がつくな」
「もちろん、そうだと決まったわけじゃないから、検証する必要はあるけどね」
「そうだな……誰もいない場所だと助かるのだが……」
寒太は地図の上に置かれた鉛筆を手に取り、次の場所の候補に丸を付けた。
「……人が済んでいそうなアパートは無いようだ。近くに見張れそうな建物もあるし、ここら辺で少し見張るのもいいかもな」
「よし、じゃあすぐにでも……いや」
真玄は「すぐにでも見張りに行こう」と言いかけてやめた。本当はすぐにでも行きたかったのだが、沙羅に言われたことや寒太にいつも言われていることを思い出し、思いとどまる。
「……今日爆破されたばかりなら、また準備がかかるはず。こっちも準備をしっかりして、明日くらいから動こう」
「……? 珍しいな。いつもなら、準備もろくに考えずにすぐさま一人で動きそうなものだが」
寒太はいつもと違う真玄の様子に、首をかしげる。
「相手が相手だからね。一人で動くと危ないし、もしも相手が凶器でも持っていて追いかけられたら、命を失う可能性もある」
「へぇ、真玄君がそこまで考えているなんてねぇ。僕も同じ意見だよ」
「それじゃあ、今日は明日の段取りをして、ゆっくり休んでおこう」
真玄がそう提案した瞬間、どこからかお腹が鳴る音がした。真玄と太地がお互い顔を合わせていると、沙羅が少し恥ずかしそうに下を向いている。
「……いい匂い、してるから、お腹すいた。私たちも、ご飯にしよう」
それを聞いて、真玄と寒太のお腹も鳴り始める。そういえば、簡単につまめるものばかりできちんとした夕食は摂っていなかった。それぞれ思い思いに注文し、ひとまず少し早い夕食にすることにした。




