EP13:パターン
ファミレスに着くと、壁際の四人席に座り、適当に注文する。ノートパソコンを取りに一度帰った太地が席に着くと、爆発したビルから拾ったものをテーブルに広げた。
プラスチック片や金属片、それに少量の火薬。どれも、爆弾の材料に使われていたと思われるものばかりだ。太地はそれらを写真にとり、フレンドシーカーに投稿して情報を集めようとする。
「……それにしても、花火の火薬であんな爆発起こせるものなの?」
真玄は小さなビニール袋に入った火薬を手に取り、じっと眺めた。
「爆弾なんて、案外手近なものでできたりするんだよ。キムチを放置していたら爆発したり、レンジでゆでたまご作ろうとして爆発したり、そういうことが起こりえるんだよ」
「それでも、建物を吹き飛ばすほどの威力なんて……」
「想定以上の威力があることもあるからねぇ。例えば……」
太地はノートパソコンで何かを検索し始めた。しばらくすると、「ああこれこれ」と言いながら真玄にノートパソコンの画面を見せる。
そこには「野菜ジュースで爆発、窓ガラスが吹き飛ぶ」というタイトルの記事が掲載されていた。割れた窓ガラスの写真もあり、かなりひどいことになっているようだ。
「へぇ……急にこんなことが起こったら怖いなぁ……」
「爆弾の材料も、案外安く手に入るよ。例えば畑で使う肥料とかね」
真玄は記事を読むのに夢中だ。いつの間にか注文したものができていたので、沙羅がボックスからテーブルに運ぶ。
「それにしても、爆弾の配置、かなり考えられてる。下まで崩れないよう、量も計算されていた。かなり、慣れた人」
「それに、いくら材料がすぐに手に入るといっても、作るためには専用の機材が必要になるだろう。となると、爆発物を扱っている者か、そいったものに詳しい者、ということになるな」
俄然、元の世界で爆弾魔をやっていた人物が犯人、という説が濃くなる。試験世界は元の世界から構成された世界だ。犯人の家に、元からそういう機材があったとしてもおかしくはない。
「今じゃネットでいろいろ買えるから、関係ない人間……とも考えられるけど、一から準備するのは大変だからね」
「ああ、しかし今問題なのは……」
「そいつがどこにいるのか、ということだね」
どういう人物が犯人なのかは重要ではない。捕まえて被害を増やさないようにするのが目的だ。居場所が分からなければ、話にならない。
「今回は厄介だね。今までは人前に直接出てくるような犯罪だったのに、今回は遠くから自分のやっていることをのんきに眺めるような犯人なんだから」
「結局、手がかり、無いってこと?」
調べた情報が無駄になりそうだと考えたのか、沙羅は落ち込んでいるように見える。
「そんなことないよ、きっとこの手がかりが役に立つって。沙羅は頑張ってくれたんだから」
「そう……真玄に褒められるの、うれしい。でも、まだ犯人、捕まっていない。勝負は、これから」
沙羅は英気を養わんとばかり、来たばかりのフライドポテトをつまむ。結構沙羅は食べるんだな、と思いながら、真玄もその皿に手を伸ばした。
「うーん、でも捕まえるためにはまた次の爆発を待たないといけないんでしょ? なんかこう、法則みたいなのは無いのかな」
「法則……か。確かに、そういうものがあるなら、見つけるのはたやすそうだ」
「見つからなくても、例えば爆発しているところを見られる場所が分かれば、多分そこだよね」
「うむ。しかし、どうやって見当をつければいいものか……」
寒太と太地はそこで考え込んでしまった。真玄も何かいい案がないか探るが、思いつかない。
すると、ポテトに夢中になっていた沙羅が、食べるのを止めて手提げのバッグから何かを取りだした。
「忘れてた。市役所に行って、この街の地図、取ってきた。これ見れば、何か分かるかも」
取り出したのは、縦長のパンフレットのようなものだ。それを広げると、一枚の地図となる。
「沙羅、ちょっと見せて」
真玄がそう言うと、太地が爆弾のパーツを片付け、空いたスペースに広げた地図を置く。そこに書きこむために、寒太がマークシートを書くための鉛筆を手にした。
「最初の爆発があったのは……このビルか。そして次が……ここだな」
寒太が地図から爆発があった建物の場所を探し、丸を付ける。一応線で結んでみるが、特に何かあるわけではなさそうだ。
「……さすがに二か所だと分からないね」
「そうだな。せめてもう一か所分かれば……」
そう言いかけて、寒太は「そうだ」とスマホを取りだした。
「こういうことは、犯罪の専門家に聞いてみることにしよう」
「あ、なるほど、クオンか」
ジャンルは違うが、クオンも一応は結婚詐欺という犯罪をしている。犯罪者としての心理が何か聞けるかもしれない。
寒太は早速クオンに連絡を取ってみることにした。
「芹井だ。今いつものファミレスにいる。少し意見を聞きたいから、来てくれないか? 少し早いが、夕食もこちらで準備しよう」
他にいくつか話をした後、寒太は電話を切った。
「十分ほどで来るそうだ。なんだかんだ言って、協力したそうな口調だった」
寒太はホットコーヒーを口にすると、ふぅ、と息をついた。
「クオンも、この世界は退屈なんだろうね。復讐相手も騙す相手もいないんだし、好きに物も買えないんだから」
「結局協力するしかない……ってことか」
店内が静かになると、先ほどまで気にならなかったクラシックがはっきりと聞こえる。この場所にいるだけで、なんだか心が落ち着いていく。
「それにしても寒太君、クオンに夕食を準備してあげるなんて、太っ腹だねぇ」
そういえば、さっき寒太は「夕食はこちらで準備する」と言っていた。太地はそれが気になったのだろう。
「何を言っている? 協力するなら、それなりに対価は必要だろう。食事くらいは準備しておかなければ、いくら相手が協力する気があっても失礼だろう」
カップに残ったコーヒーを飲み干し、寒太はお替わりのために立ち上がる。
「それに、支払いは白崎に任せる。僕はグッズを買ってあまり残高がないし、桜宮も同じだろう。それに、女に払わせるわけにもいかないだろう」
「え、ちょ、ちょっと待てよ!」
慌てる真玄をよそに、寒太はドリンクバーのサーバーに向かう。その顔は、何故か笑っている気がした。




