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EP12:爆破

 住宅街の狭い路地が、スピードを上げようとする自転車の邪魔をする。人が通ることはまずないだろうが、それにしても小刻みに曲がる必要があるこの道はスピードが出せない。

 真玄は焦る気持ちを抑えながら、爆発した建物の元へ向かう。住宅街を抜け、ようやく大通りに出ると、すぐさま自転車をこぐ速度を上げた。

 途中、もう一度、ドン、という爆発音がした。思わずブレーキを掛けそうになったが、そのまま加速していく。


「人がいなければいいんだけどな……」


 ぽつりとつぶやきながらも、足は休ませない。近づくたびに、火薬の臭いが強くなっていく。建物の近くまで行きたかったのだが、途中建物が崩れた破片が落ちており、その先は危険だと判断してそこで自転車を止めた。

 爆破された建物は、六階建てのビルだった。この街では、これでも階数としては高い、目立つビルだ。

 念のため建物の周りも確認したが、誰もいない。


「……やっぱり遠くから見ているのか……」


 さすがにこの規模で近くに犯人がいるとは考えにくい。真玄は周囲に警戒しながら、沙羅が呼ぶ応援を待った。


 ****


「今度は本気だな。人がいなかったのは不幸中の幸いだ」


 沙羅と共に来た寒太が、建物の様子を見てため息をつく。寒太が様子を見ているそばで太地は早速中に入ろうとするが、それは寒太が止めた。煙が蔓延しており、まだ爆発の可能性も残っている。それに、建物もさらに崩れそうだ。


「これだけの大規模爆発……結構な火薬の量だね。そんなのが花火工場にあったのかな」


「え、花火工場で大量に火薬を盗めばいいんじゃないの?」


「廃工場にするのに原料を置きっぱなしっていうのも変な話だけどね。そもそも火薬の種類が違うと思うんだけど」


 真玄は太地に言われ、廃工場の中のことを思い出した。錆びついた機材や動かせない機械はたくさんあったものの、廃工場と言う割には道具や原料が残っていた気がする。


「そういえば、アマミヤが言ってたな。この世界は一年前くらいの元の世界をコピーしたものだって」


「うーん、だとすると、一年前はまだちゃんと片付いていなかったってことなのかな」


 なんだかおかしいよね、と言いながら太地は中に入る機をうかがう。しかし、なかなか煙は収まりそうにない。


「……寒太、あの規模の爆発にしては、まったく火が出ていない。おかしい」


 太地と同じく建物の周囲を見ていた沙羅が、戻ってきて建物を指し示す。確かに、建物が崩壊するほどの爆発だったのに、出火している場所がまったく見当たらない。


「ふむ……火が出ない爆発なのだろうか? 逆にそれはそれで気になるが……」


「ああ、火ならこっちで消したよ。あんまり燃え広がっちゃうのも困るしね」


 不意に後ろから声が聞こえた。真玄たちが思わず振り返ると、アマミヤが壁に寄りかかって壊れたビルを見上げていた。


「アマミヤ、まさかここが爆発するのを知っていたのか?」


「まさか。僕らも爆発が起こった後にすぐに消火に当たったからね。誰の仕業かは知らないよ」


「知らない? 本当は知ってるんじゃないのか?」


 真玄がアマミヤに食い下がるが、アマミヤは首を横に振る。


「仮に知っていたとしても、多分教えないよ。まあでも、君達なら見当はついているんじゃないのかい?」


 もちろん、真玄たちには心当たりがある。しかし、その姿を見たことは無い。

 アマミヤはビルに近づき、破片の一部を拾う。煙は少しずつ収まってきたようだ。


「しかし……派手にやってくれたよね。これ、結構修復するの大変なのに」


「しゅ、修復って、そんな簡単にできるものなのか?」


「まあ……この世界を作ったのは、僕達だし」


 真玄は思わず「あっ」と声に出した。この世界を作った案内人であれば、修復も容易か。まだ煙が残っている状態だが、アマミヤは建物の中に入っていく。


「え、入れるの? じゃあ僕も……」


「お、おい太地!」


 真玄が止めるのも構わず、太地はアマミヤの後に続く。寒太と沙羅も「アマミヤが入るなら」と、太地についていった。それを見て、真玄は「ったく」と愚痴りながらも、置いて行かれるのが嫌でビルの中に入る。

 中は煙がまだ立ち込めているが、入れないというほどではない。ところどころ濡れているところがあり、消火の跡を思わせる。ところどころヒビが入っており、崩れてこないか心配だ。

 途中、崩れてこないか注意しながら、階段を上っていく。しかし、三階から上に向かう階段は、瓦礫が邪魔をして通れなくなっていた。


「どうやら四階あたりを爆破したらしいな。何故一階に仕掛けなかったんだろう?」


「真ん中あたりを爆破したら、重みで建物全体が崩れると思ったんじゃない? それか、構造上四階が一番もろい、とか」


 寒太と太地、そして沙羅は建物の三階部分を調べてみるが、天井が崩れていてまともに調査ができなかった。瓦礫に何か残っていないかと探してみると、プラスチックの破片や鉄製の箱のような物が出てきた。


「これかな? 爆破装置の一部みたい」


「多分そうだな。長居は出来なさそうだが、できるかぎり回収しておこう」


 太地と寒太は、瓦礫から爆発物だと思われるものを拾っていく。沙羅も、周囲に気になるところがないか調べているようだ。


「……アマミヤ、この建物、爆発した後なのに大丈夫なのか?」


「さぁ……大丈夫だと思って入ったんじゃないの?」


「え、ちょ、ちょっと待て、アマミヤもわかんないのか?」


「そりゃだって、爆破があったビルでしょ? いつ崩れるかなんてわからないじゃない」


「そんな危ない場所に誘導したのかよ。早く出ないと」


 真玄は全員に呼びかけるが、誰も聞こうとしない。


「まあまあ真玄君、危なくなったら逃げればいいんだし大丈夫大丈夫」


「このヒビの具合からして、まだ大丈夫。真玄、ビビりすぎ」


 太地と沙羅は、ここが爆破された建物ではないかのように調べ続ける。真玄は呆れて物が言えなかった。


「ああ、もし建物が崩れそうになったら、僕が何とかするよ。無用な死傷者は出したくないからね。シロサキマクロ、君も、調べたいことがあれば調べればいい」


「なんとかって、四人もいるのにか?」


「僕たちは案内人、君達ができないこともできるんだよ。例えば」


 アマミヤは手を広げて「ダミードール!」と叫んだ。すると、真玄くらいの身長がある、人の形をした黒い影がいくつも出ていた。


「うわっ、こ、これは……」


「殺人鬼が追いかけてきた時に出したのと同じものさ。これで崩れてきた建物を支えるなり、君達を外に連れ出すなりすればいい」


 そう言って、アマミヤが右手を上げて指を鳴らすと、黒い影はすっと消えてしまった。


「……案内人って、何かの能力の持ち主なのか?」


「能力の持ち主……というか、ちょっと人間と違うだけだよ。走るのが早い人と遅い人がいるように、こういうことができる人とできない人がいる。ただそれだけさ」


「俺達から見ると、まるで異世界の住人みたいだな」


「あながち間違ってはないよ」


 真玄とアマミヤが話しているうちに、寒太たちが集まってきた。どうやら、調べ終わったようだ。


「ふむ、結構爆弾らしきものの破片や道具が見つかったな。これで、どういうものか調べることができそうだ」


「火薬もちょっと残ってたから、もしかしたら再現できるかもね」


 寒太と太地は満足そうな顔をしている。あちこち調べていた沙羅も、頷きながら戻ってきた。


「やっぱり、よほど慣れているか、詳しい人がやったみたい。下だけ崩れていない、不思議」


「気が済んだかい? じゃあ、僕は帰るよ」


「助かった。ありがとう。アマミヤが手伝ってくれるの、珍しい」


「お礼を言われる筋合いはないよ。ちょっとした気まぐれさ。下手に荒されたり、無駄に死なれたりしても困るからね」


 そう言うと、アマミヤは窓を開け、そこから飛び出してしまった。


「……まさか落ちて死んでたりしないだろうね?」


 真玄は一応確認してみるが、アマミヤの姿はどこにもなかった。


「さて、僕達もいろいろ確かめたいことがあるし、場所を移すか。そうだな……ここから近いし、いつものファミレスでいいか」


 寒太の提案に賛成し、真玄たちは建物を後にすることにした。

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