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EP19:コノルー

 クオンと珠子が出ていった後、しばらく真玄たちは呆然としていた。しかし、ここにいても仕方ないと思い、片付けて帰ることにした。

 外に出ると、太陽がほぼ真上に来ている。秋に向かおうとしている割には、まだまだ気温が高い。クーラーのおかげでひいていた汗が、一気に噴き出す。

 ある程度高い建物が多いおかげで、日陰は比較的多い。それでも、歩いていると汗が止まらなくなる。


「珠子さん、大丈夫かな」


 駅に向かう途中、真玄がポツリと漏らした。


「どうだろう。クオンがどんな奴かわからない以上は、何とも言えないね」


「まあ顔はイケメンだし、悪い人じゃないんじゃない?」


「顔で判断するのは良くないと思うな」


「まあまあ、タイチはそんなに顔は悪くないと思うよ」


「マイちゃん、それどういう意味?」


 太地と麻衣のやりとりを見ていると、真玄の落ち込んでいた気持ちも少しはまぎれる気がした。


「まあ、いつまでも考えていても仕方ないか。まだやることはあるし、帰ったら寒太たちに話をしよう」


 そう言いながら歩いていると、いつの間にか駅前についていた。

 ホームに向かう階段に上ろうとすると、階段の前に誰かが腕を立っているのが見えた。


「……? 何、あれ?」


 麻衣がその人物を指さして言う。

 外見は高校生程度の背丈の人間だが、猫のような耳が付いているのが気になる。


「あの人も、この世界に連れてこられたのかな?」


「その前に、人間なの? なんか猫耳が付いてるけど」


 次々と浮かび上がる疑問に、とりあえず真玄が声を掛けることにした。


「あの、えっと、あなたは……」


 真玄がその人物に近づいた瞬間、前髪で隠れていた目をカッと開いて走ってきた。


「え、な、な、何だ?」


「コーノルー! 尻だ尻! 尻を揉ませろ!」


 真玄に近づくと、腰を狙って手を出す。しかし、真玄はなんとかその攻撃をかわした。その拍子に、真玄はその場に倒れこむ。


「え、何こいつ!? ちょっとあんた、マクロンの尻に何しようとしてるのよ!」


「俺じゃなくて尻が心配なのかよ!」


 麻衣の声に真玄が突っ込むと、その人物は麻衣の方に目を光らせた。


「おー、女の柔らかそうな尻! 揉ませろー!」


 今度は麻衣の方に走ってくる。両手を前に出している姿は、まるで立っている猫のようだ。


「いやぁぁぁぁ! 来ないでぇぇぇ!」


 思わず麻衣は近くにいた太地にしがみつく。太地はそのまま麻衣を背後に回すと、何故か背中を向けた。


「こら変態、マイちゃんの尻は僕のだ! 狙うなら僕のにしろ!」


「いやぁぁぁぁ! タイチに襲われるぅぅぅ!」


 せっかく守ってくれた太地を、麻衣は思わず突き飛ばす。太地がその勢いで猫耳の人物の方に倒れると、猫耳の人物は太地をかわした。


「あいたたた……ひどいよマイちゃん、せっかく守ろうとしている男を突き飛ばすなんて」


「コーノルー! どっちでもいいから尻を揉ませろー!」


 そう言うと、猫耳の人物は近くに太地がいるにもかかわらず、麻衣の方へ走っていった。


「いやぁぁぁ!」


「んなー! 乙女の尻に軽々しく手を出すなー!」


 少女の声が聞こえたかと思うと、ゴツン、と鈍い音が響いた。目の前には、頭を押さえてうずくまっている猫耳の人物と、地面まで伸びる長い黒髪の少女が立っていた。


「お前は……クロミナ?」


 真玄はゆっくりと立ち上がると、服の汚れを払いながら言った。


「コノルー、あんた案内人なんだから、ちゃんと仕事しなさいよね!」


「こ、コーノルー、頭殴られるの、嫌!」


「だったらちゃんとしなさい! 尻ばっかり追いかけるな!」


 今度は脇腹に向かってクロミナがけりを入れた。猫耳の人物は脇腹を抑えて「うぅ」とうめいている。


「クロミナ、何もそこまでしなくても……」


「ああ、いつものことだから大丈夫よ。コイツ、コノルーっていうんだけど、人に会うたび尻を触ろうとして仕事をまともにしないのよ」


 そう言うと、クロミナは獣耳の人物、コノルーにもう一度けりを入れた。


「おお、どこの美少女かと思ったら、クロミナちゃんじゃない! 会いたかったよー」


「んなー、サクラミヤタイチ! たしかに美少女というのは否定しないけれど、私はあんたに会いたくないわよ! それとも、あんたもコノルーみたいに蹴られたいの?」


「お願いします!」


「んなー! 気持ち悪い! やっぱりあんた気持ち悪い近寄んないで!」


 クロミナに近寄る太地に、今度はクロミナが逃げ回る。


「ちょっとタイチ、クロミナちゃんを追い掛け回すのやめなよ!」


 麻衣がそういうと、クロミナは麻衣の後ろに隠れた。


「いやーマイちゃん、やっぱり私の味方はマイちゃんしかいないよねぇ」


「大丈夫よ、クロミナちゃん。変な男が来たら、私がやっつけてあげるからね!」


 麻衣とクロミナは、がっちりと手を握って太地をにらみつける。太地はそれにひるんで、追いかけるのをやめた。


「なんで案内人が非リア充と仲良くしてるんだよ」


「え、何でって、私はマイちゃんのナビゲーターよ。ナビゲーター自体少ないから、一人のナビゲーターの非リア充の担当人数は多いのよ。それに、別にナビゲーターと非リア充が仲良くしちゃダメだっていうルールはないし」


「なるほど……で、呼んでもないのにお前らがいるってことは、やっぱり犯罪者予備軍がいたってことだよな」


 真玄がクロミナに尋ねると、クロミナは「ふっふーん」と言いながら胸を張る。


「なかなか鋭いわね。私たちは非リア充の案内係以外にも、犯罪者予備軍がうまく爆発するか監視する仕事もあるからね」


「ってことは、やっぱり……」


「シロサキマクロ、あなたの考えている通りよ。木花クオンは犯罪者予備軍の人間よ。もっとも、こいつが連れてきた変わってきた奴だけど」


 クロミナは再びコノルーを足蹴にする。それを見て真玄は、「もうやめてやれよ」とクロミナを止めた。


「クオンが変わった犯罪者予備軍、ねえ。確かに今までの犯罪者予備軍とは違う、っていう気はしたけど。クロミナちゃん、クオンってどういう人なの?」


 太地がクロミナに尋ねると、クロミナは長い髪をかき上げながら得意げな顔をした。


「まあ、一言で言えば『変わり者』ね。なんていうか、なかなか自分が持っている欲望に満足しないタイプ。だから、もし犯罪を起こしても、そう簡単に爆発しないでしょうね」


「簡単に爆発しない、か。そういえば一体どんな犯罪をするんだ?」


「ふっふーん、このかわいいクロミナちゃんが教えてあげてもよいのだけれども、それはナビゲーターの仕事ではないわ。真実を自分の手で見つけるっていうのも、楽しみの一つじゃないかしら?」


「なんだ、教えてくれたらかわいいのに、教えてくれないからやっぱりかわいくないのかなぁ」


 真玄はクロミナを挑発するが、クロミナは「ふっふーん」と言って腕を組んだ。


「いくら私が長髪美少女と言っても、そんな挑発には乗らないわよ?」


「……面白くないぞ、そのダジャレは」


「んなー! べ、別にダジャレなんかじゃないんだからねっ!」


 ツンデレの真似事のようなセリフを、クロミナは顔を赤くして言う。


「まあそういうことで、今回は爆発させるのにちょっと苦労しているところなのよね。まあせいぜい巻き込まれないように、気を付けてね……っていう説明をコノルー、あんたがするんでしょうが!」


 クロミナはコノルーの首根っこをつかむと、そのまま立ち上がらせる。


「ってことで、今日は帰るわよ。じゃあね、マイちゃん。今度またお茶しようねー!」


「うん、クロミナちゃん、ばいばい!」


 コノルーの手を引いて、クロミナは歩いていく。それを見て、麻衣は手を振って送り届けた。


「あ、クロミナ、一つ聞きたいことが」


 クロミナが数メートル歩いたところで、真玄はクロミナを引き留めた。クロミナはコノルーの手を離すと、腰に手を当てながら振り返った。


「あら、どうしたの? 美少女な私に何か質問?」


「いつもこけると思ったら、今日はこけないんだな」


 真玄の一言にクロミナは真っ赤になって「んなー!」と叫ぶ。


「そうそう毎回毎回、私が同じミスを繰り返すと思っているの? 私だって少しは学習するわよ! ふんっ!」


 そう言って帰る道へ向くと、コノルーの手を引っ張って歩き始める。が、数歩歩いたところで「んなー!」と声を上げて倒れた。


「やっぱりこけるのかよ」


 真玄はコノルーともども倒れているクロミナを見ながら、ため息をついた。

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