EP18:不信
珠子と少年の食事姿を見ながら、真玄たちも食事をすすめようとする。しかし、少年にすべてを言い当てられたことにショックを受け、なかなか食べ物がのどを通らない。
「ま、まあ、とりあえず全部食べちゃおうよ。彼らがここに来たら、ゆっくり食べられないわけだし」
太地はそう言うと、無理やり弁当の残りを口に入れる。しかし、慌てて飲み込んだのか、ゲホゲホとせき込んでしまった。
「もう、タイチはあわてんぼうやなぁ」
麻衣は太地にお茶を渡しながら、力なく言う。それ以上言葉が続かず、麻衣はため息をついた。
モニターを見ると、珠子と少年は食事をしながら何かを話している。これ以上会話を聞くのが耐えられなくなったため、ひとまずボイスレコーダーの録音機能だけ働かせ、ラジオスピーカーの音声は切ってある。
「一体何を話してるのかなぁ。私たちの悪口とか?」
「聞きたいなら、イヤホン貸そうか?」
真玄がそう言ってカバンをまさぐると、麻衣は「いや、やめておくわ」と手で制止した。
「まあ、今僕たちにできることは、言い訳を考えることくらいかな。さてどうしようかな」
「言い訳も何も、俺らは何も悪いことしてないじゃないか」
「向こうはそう思ってないと思うよ。さてどうするか……」
太地は弁当の殻を袋にまとめると、店外のゴミ箱に捨てに行った。
三十分ほどして、珠子と少年はファミレスから出ていった。しばらくすると、事務所の裏口からノックの音が聞こえたので、真玄が開ける。
「初めまして、君たちですか。あの監視カメラを仕掛けたのは」
ドアの先には、ファミレスにいた少年がいた。その後ろに、視線を逸らした珠子の姿もある。
真玄は返事ができず、少年から視線をそらす。それを見て、少年は「立ち話もなんだし、中に入らせてもらうよ」とドアを押して中に入る。
「……珠子さんも、どうぞ」
何とか真玄が声を出すと、後ろにいた珠子も中に招き入れた。
中では太地と麻衣が立ち上がって待っていた。クオンと珠子が入ってきたことを確認すると、太地は「初めまして」と言って一礼した。
「僕は桜宮太地。君は『クオン』だね」
太地がそう言うと、少年はコクリと頷く。
「なるほど、やはり僕のことを知っているようだね。僕は木花クオン。『クオン』っていうのは、フレンドシーカーだけで使っているハンドルネームで、他の所では別のハンドルネームを使っているけどね」
少年、クオンがそう言うと、太地は「まあまあ座って」と、テーブルの椅子を二つ差し出す。それを見て、「じゃあ失礼して」とクオンはその椅子に座った。そして後ろを振り向くと、「珠姫さんも」と珠子に椅子を差し出す。
クオンが座ったのを見て、太地と麻衣も席に着く。そして「マクロ君も座りなよ」と、隣の椅子をパンッと叩いた。
太地が全員に缶コーヒーを配ると、クオンはその缶コーヒーを手に取った。
「それで、君たちはどうしてこんなことをしているのかな?」
クオンはそういうと、缶を開け、一口飲む。
「俺たちは、この世界……『試験世界』から抜け出すために、いろいろと手がかりを探しているんだ。それで見つけたのが、珠子さんの彼氏さんが開発している、『リゲルズ・サーバー』なんだ」
「珠子さん? ああ、珠姫さんのことか。『リゲルズ・サーバー』っていうと、さっきファミレスで見せてもらった、あのシステムかい?」
「そう、あのシステムが、この世界脱出の鍵になると思っているんだ。それで、その開発者である珠子さんの彼氏さんを探そうとしているんだ」
「なるほどねぇ……」
クオンは頷きながら、缶コーヒーの残りを一気に飲み干す。そして空き缶をテーブルに置くと、両肘をテーブルについて体を前に乗り出した。
「で、その『リゲルズ・サーバー』が、この世界から抜け出すための鍵になるというのは、何を根拠に言っているの?」
「え、そ、それは……」
クオンの質問に、真玄は言葉を詰まらせる。
「それに、珠姫さんの彼氏さんを探すって、どうやってだい? 珠姫さんにお願いされたことなのかい? どこにいるのか、見当はついているの?」
「……」
クオンの質問に、真玄は何一つ答えられない。
「……残念ながら、今のところは、何もわかっていないよ。だから、僕たちは手がかりになりそうなものを、一つずつ調べていっているんだ。それが『リゲルズ・サーバー』であり、珠子さんの彼氏さんなんだ。この世界はリア充が本当に爆発する世界。こんな世界、早く抜け出したいからね」
真玄に代わって、太地が答える。
「ふうん、そうですか。つまり君たちは……」
突然、クオンは立ち上がってモニターを見始めた。
「自分たちが元の世界に戻るために、珠姫さんを利用しようとしていたわけだ」
「な、そういうわけじゃ……」
クオンの発言に、真玄も立ち上がって釈明しようとする。しかしクオンは聞こうとしない。
「だってそうでしょ? 必要なのは『リゲルズ・サーバー』であり珠姫さんの彼氏さんだから、珠姫さん自身に用はないわけじゃない?」
「いや、それはだから……」
「それに、珠姫さんを調べるのに、わざわざフレンドシーカーのメッセージボックスまで覗いているんだよ? そんな人、誰が信用できるというんだい?」
「ぐっ……」
次々にたたきつけるクオンの言葉に、三人とも言葉が出ない。
「ね、僕の言った通りでしょ? この世界に信頼できる人なんて、そうそういないものなんですよ、珠姫さん……いや、珠子さんとお呼びした方がいいかな?」
クオンは珠子に向かって口元を緩めながら言った。珠子は俯いたまま、言葉が出ない。
「言った通り……? おかしいな、メッセージにも掲示板にも、そんなやりとりはなかったのに……」
太地がスマホを取りだして確認しようとすると、クオンは「当たり前さ」と腕を組んで言った。
「フレンドシーカーのセキュリティは、知っている人は知っている通りかなりザルだからね。重要なやりとりは掲示板ではおろか、メッセージボックスでもやらないのが鉄則だよ。もしそういうやりとりをするなら、確認後と送信後すぐに送受信ボックスから消しておくのが鉄則さ」
「じゃあ、あの残っていたメッセージは……」
「この世界に来てから、一気にフレンドシーカーで活動している人間が一気に減ったからね。僕らのことを探っている奴もいるんじゃないかと思って、罠を仕掛けたんだよ。珠子さんにも、待ち合わせの所だけ残してもらうようにお願いしてね」
「なるほどね、これは一本取られたよ」
太地は両手を広げ、まいったと言わんばかりのポーズを取った。
「そういうわけだよ、珠子さん。この世界にいる人たちはこういう人たちばかりなのさ。じゃあ、行きましょうか。彼氏さんは、僕と探しましょう」
そう言うと、クオンは珠子の手を引いて裏口のドアに向かった。
「ま、待ってくれ、珠子さん!」
真玄が珠子へ必死に声を掛ける。それを聞いて、珠子はふと立ち止まり、真玄たちの方へ振り返った。
「……あなたたちは、信用できません」
そう言って、珠子はクオンに続いて出ていった。




