EP15:メッセージボックス
真玄が太地から受け取ったファイルを開くと、メモ帳にぎっしりと文字が敷き詰められていた。ログ解析をしたものをそのまま送ってきたらしく、本文以外の邪魔な情報まで羅列されている。
「なんだよこれ、読みやすくしてくれればいいのに」
愚痴を言いながら、真玄は関係ない部分を消したり改行したりして、自分が読みやすいように加工していく。
しばらく悪戦苦闘していたが、何とか読める形まで持って行くことができた。
メッセージボックスの中身は、大半が『珠姫』と『クオン』のやりとりで占められている。その他はスパムメッセージと少しだけ挨拶のメッセージがあるくらいだ。
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送信者:クオン
メッセージから失礼します。既に知っていると思いますが、この世界はどうやら特殊な世界のようです。
フレンドシーカー内で何人か接触を試みましたが、誰も相手をしてくれません。彼らに外へ出る気は無く、この街の中で引きこもっているようです。
ユーザーからの書き込みも激減していることから、僕たちが住んでいる世界にいた、この街の人間の一部だけがこの世界に移されていると思われます。
こんな妙な世界で一人で過ごすのは危険だと思いますが、今は一人ですか?
送信者:クオン
助けを求める、と言っても誰に助けを求めるのですか?
この世界にいる人たちは、どんな理由でここにいるのかわかりません。もしかすると、この世界を作った人間の関係者なのかもしれません。
ですから、あまりこの世界にいる人たちを信用しない方がいいと思います。この世界では家の中だけでも十分過ごせますから、何かわかるまで下手に出歩かない方がよいでしょう。
送信者:クオン
とはいっても、一人では危険です。この世界は普通の世界とは違います。危険な目にあっても誰も助けてくれませんよ?
送信者:クオン
ダメですよ。そういう人こそ危険です。こちらを信頼させて、騙そうとしているのかもしれません。
協力を仰ぐとしても、もう少し様子を見るべきです。
焦ることはありません、ゆっくり探しましょう
送信者:クオン
まだあきらめてはいけません。さっき、珠姫さんの彼氏さんの手がかりと思われるものを見つけました。
もしかしたら、珠姫さんのお役に立てるかもしれません。
送信者:クオン
ではお見せしますので、一度どこかで会いませんか?
送信者:クオン
わかりました。一応誰もいないとは思いますが、服装だけお伝えしておきます。
黒いシャツに青いジーンズ、黒い帽子をかぶって行きますので、それを目印にしてください。
送信者:クオン
よいですよ。ではお待ちしています。
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「ちょ、これ受信メッセージだけじゃないか!」
送られてきたログは、すべて「クオン」から「珠姫」に宛てたものだけだった。しかし、肝心の「珠姫」のメッセージが無いため、情報が少ない。
「……とりあえず、わかることを整理するか」
真玄はメモ帳を開き、このメッセージからわかることを書きだす。とはいっても、「クオン」が「珠姫」に誰かに協力を求めるのを止めているように見えることと、手がかりがあるから会おうとしていることくらいしかわからない。
「待ち合わせ場所も時間も分からないってなるとなぁ。服装はわかるけど、ここからどうすれば……」
真玄が悩んでいると、太地からのメッセージが届いた。
「ごめんごめん、それ受信ボックスだけのログだった。送信ボックスの解析ファイルを送るよ」
最初から送れよ、と思いながら真玄はログ解析ファイルを開く。やはり無駄な文字だらけで読みやすくはなっていなかった。
先ほどと同じように解析ファイルを整理し、読みやすくしていくと、すべて「珠姫」から「クオン」宛てのメッセージであることがわかった。
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送信者:珠姫
送信先:クオン
おかしいと思っていましたが、そんな世界なのですね。
今日、隣の駅で何人か見かけましたが、あの人たちもこの世界に移された人たちなのでしょうか。
今私は一人きりですが、今の所は大丈夫です。いざとなったら、誰かに助けを求めればよいだけですし。
送信者:珠姫
送信先:クオン
でも、私は彼氏を探さないといけないのです。それに仕事もあるから、家の中にこもっているわけにはいきません。
送信者:珠姫
送信先:クオン
今日、お昼に同じ状況に遭っていると思われる人たちに出会いました。とりあえずこの世界のことを知らないふりをして話を聞きましたが、大体クオンさんと同じようなことを言っていました。
男の人はともかく、もう一人の女の人は信用できそうでしたので、そちらの人に協力してもらおうと思います
送信者:珠姫
送信先:クオン
今日も会社に行ったり、彼氏の家に行ったりしましたが、手がかりは見つかりませんでした。
せっかくの記念日なのに、結局彼氏は来ませんでした。私、彼に嫌われているのでしょうか。
送信者:珠姫
送信先:クオン
手がかりとは一体どういうものでしょうか?
送信者:珠姫
送信先:クオン
そうですね。では駅前のファミリーレストランでどうでしょう?
送信者:珠姫
送信先:クオン
わかりました。明日と明後日は用事があるので、三日後の午後十二時でよいですか?
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この送信メッセージと、先ほどの受信メッセージを組み合わせると、「珠姫」と「クオン」のやりとりがすべてわかるようだ。
「なるほどね。えっと三日後……ということは、明日か」
真玄はメッセージの送信日時とカレンダーを照らし合わせると、太地にメッセージを送った。
「ありがとう、珠子さんが『クオン』と接触する日と場所がわかったよ」
送信して数分も経たず、太地から返信が来る。
「それはいいんだけど、ちょっと気になるよね。あんまり僕たちを信頼していないのに、『クオン』にはあっさり接触しようとするなんて」
確かに、用心深そうな珠子にしては、あっさりと会う約束をしている。しかし、メッセージの内容から、単純に「クオン」が真玄たちを信頼しないように言っているだけだからとも考えられる。
「とにかく、その日に僕たちもファミレスに行ってみよう。『クオン』の正体もわかるし、『クオン』の持っている手がかりも何かわかるかもしれない」
真玄がメッセージを送ると、すぐさま太地から返信が来た。
「だったら僕にいい考えがあるよ。『珠姫』たちが集まるより少し早く、午前十一時にそのファミレスに集合ね」




