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エピローグ

「パパ!休みの日くらい剣を振るのをやめて、子供の面倒も見てくださいまし!」

  

 シルクの声が、庭に響いた。

  

 俺は木剣を下ろした。

  

「う、ご、ごめんママ。おいでリネン」

  

 五歳の娘が、とてとてと駆けてくる。

  

 金髪で、目が大きくて、笑うとえくぼができる。

  

 どう見ても、シルクの娘だった。

 

  

 リネンの手を引いて、王都の通りを歩いた。

  

「パパァ、どこいくの?」

  

「んー……取り敢えずシアのとこでも行くか」

  

「わーい、シアねえのとこだ。でもぉ、ママ怒らない? ママいないところでシアねえに会うと怒るよぉ?」

  

「う……」

  

「シアねえがね、パパはママにシリニシカレテルって言ってたよ?」

  

「その単語は忘れていい」

  

 リネンが首を傾けた。

  

 その顔が、シルクにそっくりだった。

 

  

 近衛の詰め所の前に立つと、シアが出てきた。

  

 近衛の制服を着ている。

  

「よう、シア」

  

「久々に顔を出したな、智」

  

「近衛はどうだ? 制服やはり似合わないな」

  

「シアねえかっこいい!」

  

 シアがリネンを見て、少しだけ顔を緩めた。

  

「はは、そうだろ。私はこういうのも似合うんだ。いい子だなー、リネンは」

  

 リネンがシアの手を引っ張って笑っている。

  

 しばらく三人で話した。

  

「そういえば智、ミラがリネンに会いたがっていたぞ。この時間は休憩時間だ。行ってみたらどうだ?」

 

  

 訓練場の隅で、ミラが剣を振っていた。

  

 相変わらずだった。

  

「ミラねえ!」

  

「あら、リネンじゃない! 智も」

  

「なんでそんなにリアクションに差があるんだミラ……」

  

「当たり前じゃない」

  

「えー……辛辣」

  

 ミラはリネンの前に膝をついて、懐から小さな包みを取り出した。

  

「はい、お土産よ」

  

「わー! かわいい! ありがとうミラねえ!」

  

 シールだった。花や星の形をした、小さなシール。

  

「こんなの今はやってるのね」

  

「うん! ノートに貼ってお友達と交換したりするの!」

  

「へえ」

  

 ミラがリネンの頭を撫でながら、俺を見た。

  

 何も言わなかった。

  

 ただ、少しだけ目を細めて、笑った。

  

 それだけで、十分だった。

 

  

 帰り道、リネンが俺の手を握ったまま歩いている。

  

「よかったな、みんなお前を可愛がってくれてる」

  

「えへへぇ」

  

 夕暮れの通りを歩きながら、俺はふと言った。

  

「顔も、性格もママに似てよかったよ」

  

「そー? よくわかんなぁい」

  

 リネンが笑う。

  

 その笑い方が、やっぱりシルクにそっくりだった。

 

  

 家の扉を開けると、シルクがいた。

  

「ただいま、ママ」

  

「おかえりなさい。リネンも」

  

「シアねえとミラねえと遊んできたー!」

  

 シルクが俺を見た。

  

「……パパ。後で話があるわ?」

  

「う……!」

  

  

「そういえばなんでシアは近衛なんかに戻ったんだろうな」

  

 夕食の後、リネンが首を傾けながら言った。

  

「オキュウリョウがいいって言ってたよ?」

  

「あー……」

  

「レザードねえは今何してるの?」

  

「あー、あいつは今は冒険者なんだ。悪いやつをやっつけ回ってるんだとさ」

  

「悪いやつですか?」

  

 シルクが聞いた。

  

「アラミド教団の逃げた幹部を追うんだと。冒険者はフリーランスだから、拘束時間を気にせず動けるんだとさ」

  

「コウソクジカン?」

  

 リネンが眉間に皺を寄せて考え込んだ。

  

 シルクが噴き出した。

  

「ふふ……リネン、考え込んだ顔パパそっくり。あはは。ほんとパパに似てよかった」

  

「パパはさっきはママに似てよかったって言ったのに」

  

「どっちにも似てるんですわ」

  

 リネンがきょとんとした顔をしている。

  

 智様が、少し照れたように視線を逸らした。

  

(本当に、パパに似てよかった。不器用で、素直じゃなくて、でも誰より真っ直ぐな、あの人に)

  

 心の中だけで思った。

  

 リネンが寝た後。

  

 俺は剣の手入れをしていた。

  

 いつもの習慣だ。二十年前から変わらない。

  

 ただ、あの頃と違うのは。

  

 隣に誰かいることだ。

  

 シルクが、俺の隣でお茶を淹れている。

  

 お茶の香りが、部屋に漂う。

  

 あの朝のことを、ふと思い出した。

  

 シルクがいなくなった朝。廊下に残っていたお茶の香り。胃がひっくり返るように泣いた、あの朝。

  

 今は同じ香りが、温かかった。

  

「……智様」

  

「ん?」

  

 シルクが、俺の隣に座った。

  

「幸せですわ」

  

 俺は剣を置いた。

  

 何か言おうとして、うまく言葉が出なかった。

  

 結局、それだけ言った。

  

「……俺も」

 

 シルクが、小さく笑った。

 

 窓の外、王都の夜は静かだった。

 

 長い長い旅が、ここに終わる。

 

 いや。

 

 ここから、始まる。

 

 思えば。

 

 あの朝、タオルを持って庭に出た日から。

 

 俺はもう、奪われていた。

 

 そして今も。

 

 ずっと、奪われたままだ


最後までご閲覧ありがとうございました!


今、新作と、この話のリメイク版も作成中です。

あまりにも文が稚拙だったもので……


もし興味をもっていただけたらブクマ等よろしくお願い致します


ここまで本当にありがとうございました!




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