第一話 「いざ、首都へ」
二章スタートになります!
二章はバトル多めになるので、漸くハイファンタジーの仲間が入り出来るかと思うと楽しみです!
「ナディは元気にしているかしら…あッ!ご、ごめんなさい…!…ごめんなさい……」
思わず溢れた言葉を慌てて取り消し、皆も同じ気持ちで堪えているのに、と、謝る事しか出来なくなる。幼い我が子を失った母親。一番辛いのはアンナかもしれない。シグルドが修行に明け暮れている時間、淑女教育も全てアンナは付き添っていたのだから。
「大丈夫ですよ、奥様。精霊界はとても楽しくて、安全な所らしいです。ナディ様は今頑張っておられるのですよ」
あれから数日。青の国の首都へと向かう一向の目的は観光だけではない。
もちろん安全面での確保が出来ているからこその旅行ではあるのだが、どうやら最近アンデット騒ぎが起きているらしい。
アンナの出身は赤の国。大公家の出であるが魔力が弱い。この世界の色への執着は異常といっても良いレベルで、赤系統は火、青系統は水、緑系統は風、橙系統は土、とそれぞれ髪と瞳の色で魔法属性が決まる。
銀灰色の髪と橙色の瞳を持つ父には優秀な土属性の適性が出たのだが、赤い瞳を持つものの母には弱い火属性しか扱えなかった。だからこそ薄橙色の髪を持つアンナには、他国の優秀なクラークとの縁談が決まったのだ。
しかし、アンナは代わりに神聖力という特殊な力を持っている。これは魔力とは相反する力で通常は誰も持ち合わせていない特別な力である。
「そうね!サクッとアンデットを浄化して、青の国観光楽しみましょ!」
青の国の首都は巨大な湖に浮かぶ浮島にある。通常浮島は風や水流で位置が移動する特徴を持つが、そこは青の国、水魔法で島の位置は固定されている。船でしか首都に渡る事が出来ない、城砦都市ならぬ、城水都市。水魔法の聖地である青の国の首都は鉄壁の防御で固められているのである。
なんだか、この船…。大丈夫なのか?
渡し船と呼ばれる、なんとも三途の川を渡りそうな粗末な木造の小舟。首都へと渡る船にしては、簡素であるといえる。
シグルドは水面に映る浮島の影をぼんやり見つめると、水が澄んでいるからか、深さが良くわかる。ギコギコと響くこの一定間隔の音がなんとも不気味で頼りない。
ふ、深いよな?まさか、沈んだりしないよな?え?何?フラグ?いやいや、やめて!
僕、泳げないの…。じゃねーから!俺は泳げるから!前世で、って。…ん…?俺は…泳げるのか…?
いやいや!やめろやめろッ!フラグは起きないフラグは起きない!
どんどん顔が青ざめていくシグルドの肩に、ポンッと手を乗せる侍女リンリン。当然、シグルドはビクッとなり、後ろを振り返る。すると、苦笑いしたリンリンと目が合った。
「怖いのですか?シグ様!珍しいですね!青の国は旧暦の時代の文化がまだ根強く残ってますからね!特に首都は水に覆われ独自の文化が根強いんですよ」
「ふふふ、リオーネだと水は貴重だものね!シグちゃんオマセさんだからお母様嬉しいわ!それにしても、それを言ったら赤の国もだわ!今だに着物を着てる人が半数はいるものね」
ふふ、と笑いシグルドを膝に乗せるリンリン。
「そうですね!着慣れていないと難しいらしいですが、私は断然着物派です!風情があって落ち着きますよね」
き、着物??え?何?青と赤の国は和風な感じ??だからこの小舟も凄い和風なのね!ホントだ船頭さんだ!ちゃんと法被に股引きに草履も履いてるぞ!え?じゃあ街並みは日本家屋だったりするのかな?前世の実家の道場で育った俺としてはテンション爆上がりなんだけど!
「シグには変わった景色だろうが、なかなか良いものだぞ。楽しむと良い」
「はい!楽しみですッ!」
やべー懐かしいなんて言ったら面倒しか起きないしな!ただ見慣れないからテンション高いくらいに思って貰わないとね。
すっかり気持ちの晴れたシグルドは、フラグを回収する事なく、無事首都に上陸した。
そして予想は的中し、必死で喜びを噛み殺している。
わぁ!瓦屋根だー!平屋だー!襖もあるー!
江戸時代の城下町の景色と言えば分かりやすいだろうか、白壁や土塀、格子戸の建物が並ぶ街並み、堀や川、一見すると迷路のような通りが特徴的だ。
わぁ、時代劇で見たような風景だなー!風が吹けば砂埃が舞ってるこの感じ味があるよねー!
「ふふっ、お気に召されたようで嬉しい限りです。もう少し進むと、食事が出来る出店が並んでおりますよ!リオーネとも違う甘味も多くあります!」
そうか!こんなに和の雰囲気なんだ!米!米が食べられるんじゃないのか!くーッ!この世界に来て何度も夢にまで見た米!米が食べられる!
「行きたい!絶対行きたい!」
目を輝かせるシグルドと共に一向は、仲見世通りと呼ばれる出店が並ぶ通りへと向かう。
「そういえば、リンリンはウィニキートスの古舞術の師範代なんでしょ?お弟子さんとかも多かったりするの?」
「ええ!ハンスもそうですが、それなりにいますね!そうだ!中でもウィニキートスの騎士団長のコバルトは、水魔法と格闘技を専門に戦うスタイルなので、シグお坊ちゃまには良いお勉強になるかもしれませんね」
確かに格闘技主体なら今の銃との相性はバツグンだな!前世で格闘家だった身からしたら戦闘を観るだけでも勉強になる!
ーーーん?
ッッッ!!
何やら喧騒が聞こえる!
「皆様はここに待機して下さい!様子を見て参ります!」
「いや、状況が分からない以上判断が出来ない。離れない方が良い場合もある。騒ぎはすぐ側だ、一度確認し判断する。行くぞ!」
クラークがそう判断し、全員で騒ぎの元へ向かった。
そこには、騎士団らしき人々が何人も倒れていた。血は流れ、出店は崩され、大きな広場は戦場と化していたのだ!
そして少し離れた場所に、戦闘中の男が2人いる!
騎士団の生き残りだろう、濃紺の髪の男は鍛え抜かれた体をしなやかに動かし、舞う!更に水魔法を鋭利な渦のように拳に纏い、連続攻撃を放つ!
円舞の様に回転し、蹴り、拳、更には懐に入り込み投げ技、すべてが正確無比で、投げ技では地面がひび割れる!その全ての技で水魔法の影響か、敵の肉は抉れていく!
「なんて酷い…あれはっ、コバルトッッッ!!?」
「警戒!半数は生存者を確認!避難、救援に回れ!敵数が分からない以上残りは待機!私はリンリンと彼の救援に向かう!」
「はっ」
父クラークの迅速な対応でリオーネ騎士団の半数を残し、皆が動き出す!
コバルトってさっき言ってた騎士団長か!正確無比な拳打だ、一目で達人だと分かる!!
これが古舞術、回転と舞で動きの予測がつきづらい独特な戦法だな!
それに、魔法の格闘はこういった戦いになるのか、強い!一撃一撃が致命傷になる程の強打だ!そろそろ結果はつきそうだな!
しかし優勢に見えていたのも束の間。相当なダメージを負っている筈の、敵の男は一切動揺せず、瞬時に距離を詰めると、まるで空気を裂くような一撃を放った。コバルトは防御に回るが、強力な衝撃波に体勢を崩され、鎧が悲鳴をあげる!
なッッッ!!
水の渦を纏った拳を振るっても、敵の男はあっさりとそれを切り裂き、返す刃のように正確無比な一撃を叩き込む。コバルトは圧倒的な力の差に体を押され、地面に膝をついた!
「させないわッッッ!!」
金属同士がぶつかる鋭い音が鳴り響き、衝撃で砂埃が舞い上がる。
敵がとどめを狙い、刃を振り下ろすその瞬間、瞬時にリンリンが間に入ったのだ!
攻撃を受け止められた敵は思わず体勢を崩す。
その隙を狙いクラークは迷わず銃を速射した。弾丸が正確に敵の足元や腕に命中する!!
敵は増援を警戒し、即座に逃亡を開始するが、クラークの正確無比な弾道からは逃げられない。
「終わりだ」
けたたましい爆音と共に敵の頭部は吹っ飛び、辺りを血で染め上げる。
息を呑むような戦闘をただ傍観するしかなかったシグルド達も、倒れるコバルトにかけよる。
「コバルトッッッ!!!」
リンリンは倒れたコバルトの容態を確認する。
が、コバルトの砕けた鎧からは大量の血が流れている。顔色もどんどん悪くなる。
「リンリン…か…すまない…格好の悪い…所を見せた…」
「何を言うの、あんな敵を相手に、よく戦ったわ!」
「アーツである…お前に…褒めらるなんてな…はは…きっと…槍の雨が降るな…」
「こんな時まであんたはそんな軽口を!さぁ、ポーションを飲んで!傷にも掛けておくから!」
「あぁ、…すまない。ふっ…最後はリンリンの胸の中か……なぁ、リンリン…俺はずっと待ってたんだ……ずっとお前に会いたかった…やっと…会えた…のに…」
「イヤッ!!ダメよッッッ!コバルトーーーーッッッ!!!」
リンリンの悲痛な叫びが響き渡る。ポーションを全身にかけるも手遅れだったようだ。
「コバルトッッッ!コバルトーーーッッッ」
リンリンの涙でコバルトは顔を濡らし、まるで彼も涙を流すように、安らかな顔だった。
「うっそーーーーーッ」
ガバッと起き上がり、コバルトは陽気なポーズにぺろっと舌を出す。
「ビックリした?ビックリしたー?いやー、さぁ、リンリンったら全く帰って来ないんだもん!ちょーっと驚かそうかと思ってー!でも、そこまで泣いてくれて、俺も嬉しいよーやっぱりリンリンも俺を愛してくれていーーー」
時が止まっていたリンリンだったが、彼の無事を知り、無言で抱き付いた。
「悪かったよ、リンリン。冗談が過ぎた」
「……本当だよ…。どれだけ…心配したと思ってるの…?」
「悪かったよ、久々なんだ。笑顔見せてくれよ」
「いや。今、顔見ないで」
「何ー?リンリンでもそんな可愛い事言うんだなー?ほら、顔見せて」
えー?!なになに?この人???なにこの雰囲気!?リンリンみんなが見てますけど???何これラブラブじゃないの?リンリンの恋人?そーゆー関係?だよね?
ほーらほらほら、イチャイチャがどんどん進んでるよ?キスするんじゃないの?分かるよ?分かる!状況が状況だからね!でもね?リンリンみんなが見てるの!見てるよー!
その後、状況に気付いたリンリンが赤面し、気丈に取り繕い始めたが、まぁ周りは大人だもの、微笑ましそうに笑顔を浮かべる。俺はどうだろう?顔に出ていたかも知れないけどね。
そして、リオーネ騎士団の救護に当たった半数と合流し、報告を受けた。
生存者は皆無で、倒れていた者の中には、死後数日たっている死体が混ざっていたのだそうだ。それも、拘束をされた状態で。コバルトに事情を確認した所、死体が蠢いていたので拘束するしかなかったのだそうだ。
「やはり、アンデットか。敵はどの攻撃に対しても怯みもしなかったのでな。頭を撃ち抜いたのは正解だったようだ」
クラークの言葉に皆が感嘆の声をあげるが、数名は気付いている。
果たしてアンデットとは、あそこまで俊敏に動けるものなのかという大きな疑問に。アンデット発生の原因が分からない以上、警戒を強めなければならない。
今回の旅は妹ナルディアの護衛も含まれていた為、リオーネ騎士団の半数を引き連れた、仰々しい一団である。治療の為運ばれたコバルトにリンリンは付き添う事になった。と言うのもクラーク達の目的地も同じ場所らしく、向かう事になったのだ。シグルドと護衛執事ハンス以外は。
「悪いがシグよ、私たちはこれよりアンデットの浄化に向かう。危険なのでシグはハンスと共に別行動になる」
ハンスに連れられ歩き出したシグルドは、恨めしそうに振り返りながら、クラーク達を見ている。
「かわーいーい子牛ー、売られてゆーくーよー。かなーしそーなひーとーみーでーみーてーいーるーよー」
「なんですかその人聞きの悪い歌は!」
真面目だよなー。ハンスって野武士面のくせにさー。こっちは置いてきぼり喰らったんだからさー、ちょっっとは察してよねー。悲しそうな瞳でみてんだよ!
ジト目でハンスを見つめるシグルドは改めて思うのだ、それにしてもこの景色に溶け込みすぎていると。
「ハンスも赤の国では着物だったの?なんだか凄く似合いそう!」
「それはありがとうございます、そうですね!私は常に着物を着ておりました」
「なんかねー、裾をまくって胸元はだけてそうなワイルドなイメージ」
「そうです!さすがはシグルド様の慧眼はーーー」
そのまんまかいっ!
上機嫌なハンスを他所に、シグルドは気になる質問をぶつける。
「所でさー?アンデットってそんなに危ないの?みんな、大丈夫なの?!」
「いえ、何も問題ないでしょう。今回は青の国と親睦の深い赤の国から、聖火も用意されますからね。更にアンナ様は赤の国の巫女選抜にも選ばれたお人です。危険なのは錫杖の力の方にあります」
「錫杖…?お母様は危ないの?」
「錫杖は古の神の遺産。効果は絶大ですが、使用者が限られております。神聖力が強い者の中でも、現在はアンナ様にしか扱えず、その力を扱うと5日は目を覚さない程。アンナ様ですら扱えるだけで、装備は出来ないのです。ですが錫杖は一度使用すると、広範囲に効き目がありますから、墓地程度ならご心配は無用でしょう」
「ふーん?」
まぁ要するに強力な武器だけど、母様なら扱えて、神聖力が空になるから回復に睡眠が必要って事?全然危なくないじゃんね?
母様ももう20代半ばだし下手したら見れる機会も最後かもじゃね?騎士団の半数を連れて行ってるから、まぁまぁの大所帯で、馬車もそれなりだったよね……ふーん?
ハンスを横目に、ニヤリと笑うシグルドだった。
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そしてご報告です
二章からは日水金19時の更新に変更致します。
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