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『朱里ちゃんの戯言』短編小説集   作者: 健野屋文乃
8章 あやかしの章

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落ち武者狩りの爺さまと山姥な婆さまの最後の冒険

むかしむかし あるところに、爺さまと婆さまが住んでいました。



しかし、時は戦国乱世。



爺さまは、山に落ち武者狩りに、婆さまは、川に返り血を浴びた衣服を洗濯に行きました。婆さまが、川で洗濯をしていると、上流から大きな桃が、どんぶらこどんぶらこと流れてきました。



しかし、婆さまが桃を取ろうとすると、桃は、有り得ない角度で急旋回!


桃は、婆さまの山姥の様な形相を察したのか、向こう岸で洗濯をしている、人の良さそうなお婆さんの方へと、逃げるように流れて行ってしまいました。



山姥な婆さまは、向こう岸の人の良さそうなお婆さんを、罵倒しようと思いまいしたが・・・相手は、村で一番人の良いお婆さん。


悪口一つ思いつきませんでした。



「忌々しい、忌々しい」



婆さまが、嘆いていると、今度は、落ち武者の生首が、どんぶらこどんぶらこと流れてきました。



「あの気品溢れる儚い表情。きっとえらいお侍様の首に違いない!」



婆さまは、そう思い、今度は急旋回せぬよう、素早く棒で生首を手繰り寄せました。


婆さまの山姥の様な形相に気づいた武将の生首は、


「待ってくれ!待ってくれ!」


と騒ぎましたが、時すでに遅し。


「生首が喋るなんて往生際が悪い!」


と、叱りつけると婆さまは素早く洗濯桶に、武将の生首をしまい込みました。



そして「恩賞♪恩賞♪」と家へと急ぎました。



山姥な婆さまが家に帰るとすでに、落ち武者狩りの爺さまは、帰っておりました。



「爺さま爺さま、見ておくれ、この生首、この気品、えらいお侍様に違いない」


「お゛お゛!お゛お゛!これはウチの殿様ではないかい!戦場で見たことがある!」


「工工工エエエエエエェェェェェェ乱世に生き残るには優しすぎると、お噂のあの殿様ですか、嘆かわしい・・・この様なお姿に」



山姥な婆さまは驚き嘆きました。



「解ってくれたか!我が良民よ」


と殿様の生首が安堵したのも束の間。


「しかーし、爺さまや、この首を新しい殿様に持っていけば、恩賞をたんまり頂ける」



落ち武者狩りの爺さまと、山姥な婆さまは、大喜びしました。



「ご老人たち・・・待たれよ。


余は城を落とされ、家臣を失い、命を失った。


そして、今は生首の身。


さらに、この首を晒される辱めには耐えられぬ。


どうかそれだけは、考えを改めて欲しい」



生首の殿様は言いました。しかし、落ち武者狩りの爺さまは、


「弓矢を持つ者の習わし、ご覚悟を」


と戒めました。



「えっ・・・そんな・・・そうだ。助けてくれたら褒美を遣わそう」


「褒美?」


「いざと言う時の埋蔵金じゃ」


「埋蔵金ー!」



爺さまと婆さまは大喜びです。



「埋蔵金に比ぶれば、余の首を届けた時にもらえる恩賞など、雀の涙。


それほどの金額の埋蔵金じゃ!」



爺さまと婆さまは、色めきました。



「余は使う間もなく、滅んでしまったが・・・


どうかこの首、余の菩提寺まで運んではくれぬか?」



「爺さま、行きましょうよ。埋蔵金褒美にくれるって言うんですよ」


「しかしな・・・この殿の首を持っている事を、新しい殿の軍勢に見つかったら、わしらの身が危ない」


「その時は、余を差し出すがいい。そのくらいの覚悟は出来ておる」



殿さまの生首は言った。



婆さまは、殿さまの生首が可哀想になったのか、埋蔵金なら!と思ったのか、爺さまに言いました。


「そう言えば爺様がまだ若い頃、恩賞でその名刀を頂いた事があったような」


「これじゃこれじゃ、これは良い刀だった。お蔭で今まで生きてこれたと言うものじゃ」



爺さまと婆さまは、目を合わせ「まあそうじゃな」と殿の菩提寺に向かうことにしました。



爺さまと婆さまは荷車に乗せた桶に団子を詰め、生首を一番奥の樽に隠し、出かけることにした。



殿様の元領地では、残党狩りが行われていました。



樽の中の生首の殿様にも、捕縛された家臣の怒声が、聞き取れた。


「すまぬ」生首の殿様は呟きました。



「当地名物の、お団子はいらんかね~」


爺さまと婆さまは、愛想を振りまきながら荷車を引きました。



菩提寺に着いたのは、夕刻でした。


しかし、菩提寺は戦いの末、焼け落ちていました。



焼け野原の火はまだくすぶっており、樽の中から出された生首の殿様は、呆然とした。



生首の殿様は、日が暮れるまで焼け野原の火を見つめていました。


夜空に満月が上がる頃、しびれを切らした婆さまが、



「殿様・・・そろそろ埋蔵金の在り処を・・・」


と口にした。すると生首の殿様は、静かに話し始めた。



「余は荷車に揺られながら夢を見た。


この乱世が終わり、いつの日か太平の世が来る夢を、人々は桜が咲き乱れるなか、戦乱に怯えることなく、酒を飲み踊り狂っていた。


それはとても、やわらかな表情だった。


ご老人たち・・・頼みがある。


埋蔵金はここの裏山にある。



その使い道だが、この焼け野原と化した廃寺に桜をたくさん植えて欲しい。


余や余の家臣領民が、生き得なかったやわらかな時代への想いを込めて、桜をたくさん植えて欲しい。


自己満足かもしれんが、どんな形であれ、そんな、やわらかな時代と関わりたい。


埋蔵金は、桜を植えても、100年じゃ使いきれんほどの額だ。


残った金は、二人でどう使ってもいい・・・頼む」



「然と」


と爺さまと婆さまは答えました。



植えた桜が成長し、廃寺に桜が満開になるには時間が掛かり、爺さまと婆さまは、満開な桜を見ることなく、この世を去ってしまいました。



しかし、育っていく桜を見続けている内に、険しい爺さまの形相と山姥の様な形相の婆さまの表情は、桜の精がのりうつったかの様に、華やかな表情へと変わっていきましたとさ。





おしまい



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