召喚術を改良しよう
ドラゴンズドグマ・オンラインに熱中して遅くなりました~
死んでません、生きてます
気がつくと日が既に高く昇っていた。
一体いつの間に寝たんだろうか。
体を起こして調子を確かめるが、別段おかしいところはないようです。
足元では完全に灰になった焚き火の周りを、黒コゲになった物体Xの刺さった串が囲っている。
どうやら食事中に寝落ちしてしまったようです。
串は鉄製だったので無事だったが、肉とキノコは完全に中まで炭化している。
少々もったいなく感じながら片づけを始めた。
片づけをしながら昨日の夜何があったかを思い出す。
確かゴブリンたちに毒味をさせてキノコ串(ネギま風)を食べていたはずだ。
毒はなかったはず。
アングリーファンガスが見た目に反しておいしかったことを思い出し、思わず頬がにやける。
それから最後の記憶はキテレツベニテングの串を食べたところで終わっていた。
そこまで思い出した瞬間、強烈なフラッシュバックに持っていた串を取り落してしまった。
串はそのまま重力に引かれ、地面にぶつかった瞬間に物体Xが砕けて周囲に飛び散る。
頭痛にも似た不快感に思わず頭を抱えてうずくまった。
思い出してしまったのだ。
恐怖を。
絶望を。
それはあらゆる感情をない交ぜにしたような、究極の味だった。
初めに感じたのは苦味だろうか。
いや、とろけるような甘味だったかもしれない。
ともすれば舌を焦がすほどの辛味でもあったのだろう。
とにかく覚えているのは舌と脳を焼くほどの暴力的なまでの味覚の奔流。
感じうるありとあらゆる味がした。
渋味、エグ味、酸味、そして旨味さえもが混然一体の不協和音の濁流となって口の中を蹂躙したのだ。
どうやらそれらの押し寄せる情報と感情を制御できずに、意識が強制的にシャットアウトしたらしい。
奇天烈の名に恥じぬ、究極のキノコだった。
ゴブリンが普通に食べていたせいで油断していたようです。
そもそもゴブリンといえば木の根っこさえ食べるほどの悪食だった。
毒見はできても味見はできなかったようです。
失敗した。
せっかくの幸せな気分が台無しだ。
恐るべし、キテレツベニテング。
BC兵器として認定してやろう、喜ぶがいい。
スティッキーマッシュと混合すれば強力な罠になること間違いなしだ。
きっとかかった者を恐怖のズンドコに陥れることだろう。
片付けをしているうちにだんだんと落ち着いてきたので今日の予定を考えることにしよう。
一応、アルマスに呼ばれるまでの5日間で製品の見本を作るつもりでいたが、思いのほか早く終わってしまった。
魔道鎧はまだ作ってないけど、ちょうどいい魔石がなかったのでこちらは保留にしている。
人工魔石だと性能が良すぎるので、魔物からとれる魔石を使うつもりでいるのだ。
かといってここらや魔石商から入手できる魔石では魔道鎧の性能を発揮するには質が悪すぎる。
最低でも3級品の魔石が欲しいけど、そうなると商工会ギルドへの登録が必要だ。
しかし、アルマスからギルドへの登録や仕入れの手続き諸々をまとめて終わらせるために、それらの準備を任せて欲しいといわれている手前勝手に登録するわけにはいかない。
少し迷ったのち、かねてより問題だった召喚術の改良をすることにした。
今のところ問題になっているのは術の行使に必要な魔力量なので、これを少ない魔力で行使できないか模索してみます。
参考にするのは【死霊術】。
これは召喚した従魔の肉体を死体に置き換えているだけで、根本的な理論は大して変わらない。
おまけに肉体の構成に必要な魔力がいらない分コストパフォーマンスは段違いです。
どちらも術式の維持に魔力が必要という点が同じだけど、死霊術の方が断然維持コストが安いというのも注目すべきところだ。
まずは死霊術の仕組みについて解説しようと思う。
死霊術とは文字どうり魔力を用いて死体を操る術だ。
死体であれば人間でも魔物でもなんでも操ることができる。
行使の際は魔力を紐に見立てて全身に通し、これを筋肉のように曲げ伸ばしすることで死体を操作する。
この時に魔石を利用すると全身に通した魔力の紐の操作が楽になるため、大半の死霊術師は死体に魔石を埋め込んだり、魔物の魔石をそのまま利用する。
死霊術では術者が直接指示を出すため、アンデッドと違って頭部に魔石がないのも特徴だ。
アンデッドは体を動かすため、頭部の魔石が司令塔になっているからだ。
魔力の紐は一度通せば術を解かない限り維持されるので、死霊術の維持コストの大半が死体の腐敗を遅らせるために使われている。
召喚術で召喚される従魔はある種『生命体』であるため、生命活動諸々に必要なエネルギーを魔力から補っている。
その点でいえば、死霊術の維持コストの低さは対象が生命活動をしていないことならではだろう。
さらに腐敗することを承知で魔力供給を絞れば、限りなく魔力消費を抑えることもできる。
実際、過去にもそうやって数百体もの死体を従えて町へ攻め込んだ死霊術師がいたらしい。
そのせいもあって死霊術は忌避されている。
以上のことから、重要なのは『仮初めの肉体となる器がいること』と『魔力を持って操作する』という2点であることが分かった。
そこから「器を死体以外にすればいいのでは」という結論に至るのはそう難しくないことだ。
なのでさっそく死体以外の器、つまり人形を作ることにします。
使うのは普通の木材より魔力の通りがいいマイナーエントの木材。
これを手や足などの部品ごとに削り、紐でつないでいく。
出来上がったのは木彫りの小人人形だ。
立たせると膝丈くらいになる。
初めから等身大に作ってもうまく扱えないと思ったのでこのサイズにしました。
仕上げに胸の部分にゴブリンの魔石を埋め込んで完成。
さっそくうまく動くか試してみることにします。
まずは魔力の糸を胸部の魔石につないでパスを形成。
そこから魔石を起点に魔力の紐を手足へと伸ばしていく。
しかしそこで思わぬ誤算があったようです。
胴体から手足へうまく魔力の紐(便宜上、魔道神経と呼ぶことにしました)がつながりません。
原因はどうやら手足をつなぐ紐にあった。
どうもこの紐は魔力伝導率が悪いようで、手足まで魔道神経が通れないようです。
いきなり成功するとは思ってなかったけど、それでも多少の期待はあったのでガッカリです。
まぁ問題点も明らかになったので良しとしましょう。
人形を代わりに使う方法はすぐに思いつくのに今まで使われていないのは人形の出来栄えが問題だったんでしょうね。
仮に魔力伝導率のいい素材で紐を作ったとしても強度の問題だったりコストが割に合わなかったりなんてこともあるだろう。
高価な素材を使うより死体を使う方がずっと安上がりですからね。
本来ならそこで挫折するのだろうがこちらには前世から持ち込んだ知識がある。
そう、球体関節だ。
関節の接続は比較的魔力を通しやすい銀を使うことにします。
接続箇所はスムーズに動くようにオークナッツの油を注しておく。
さて、今度は成功するかな?
結果から言うとあっさり成功しました。
それはもう今までの先人の苦労をあざ笑うかのごとくするりと魔道神経が通りましたとも。
試しに手を上げさせてみるとちゃんと動いた。
もっともその動きは生まれたばかりの赤子のようにぎこちないものだった。
立ち上がらせようとしても手足をバタつかせるだけで一向に起き上がろうとしない。
まるで不格好な人形劇だ。
そこでピンとくるものがあった。
いままで体の一部から出していたパスを10本に分け、指先に集める。
それを操り人形の糸を引くように指を動かすと、先ほどよりもずっと安定した動きになった。
まだぎこちないが立って歩かせることもできるようになると、そこから一気に開花するように操作が楽になった。
ステータスを見てみると、新たに【傀儡術:2】が追加されている。
どうやら新しいスキルとして認証されたようです。
土属性魔法にも『クリエイトゴーレム』の魔法があるが、それと比べると消費魔力などのコストが断然に違うので当然といえば当然か。
スキルのおかげで今までよりずいぶんとスムーズに動かせるようになった。
ただし操作は視界によって大きく影響を受けるようです。
自分の周りを一周させようと後ろに回った時に転んで倒れてしまっていた。
慣れれば視界のないところでも動かせるかもしれないが、相当な修練や地形の把握が必要だろう。
従魔と違って視界が効かない分、扱いが難しくなりそうです。
召喚術と同じように一度に多数の運用を目的にしているので、そちらの訓練も必要だろう。
というわけで、新たに人形を4体製作しました。
新しい人形にパスをつなげて立たせます。
ここまでは順調。
あとは自由に動かせるかですが・・・・・・。
あぁ、ダメだ。
全部動きがシンクロしています。
これでは面制圧には向いていても一点集中は無理そうだ。
しかも向きを変えるとその場で横を向くため、隣の人形を攻撃するようになってしまうので前か後ろにしか攻撃できないようです。
違う動きをさせようとすると一つに意識が集中してしまい、他の動きが止まってしまう。
逆に全体を意識すればすべての動きが同じになってしまうので、一人で複数を操るとなると相当な訓練が必要だ。
たとえるならばそう、右手と左手で同時に同じ文章を複写しつつもタイミングを一文字ずらしたり、左右で写すページが違ったりといった具合だ。
さらに戦闘となればとっさのことにも判断するため、その操作をほぼ無意識のうちにやらなければいけないためその難易度は格段に上がる。
そうなるとやはり一人一体の運用が基本になりそうです。
たとえ一人一体でも全体で見れば倍の戦力になる。
おまけに人形は代えが効くので損失を気にせず最前線に投入できるのも大きい。
どの程度の魔物にまで通用するかは当人の腕次第だが、これが一般的になれば戦場は大きく変わるだろう。
前線で戦う兵士や冒険者の負担が減れば少しでも人類の領域を増やす助けとなるはずです。
明日はアルマスとの約束の日なので、その時に紹介してもいいかもしれない。
とりあえずはそれまでに傀儡術を習熟させておきたい。
複数操ることは頭の片隅に置いて、まずは一体を自在に操ることに集中する。
日が沈むころにはだいぶ様になってきた。
走るのはもちろんのこと、側転させたり木を使った三角跳びもできるようになった。
ステータスを確認すると【傀儡術:3】になっているようです。
立たせたり歩いたりは傀儡術が2になった時点で意識すればできるようになっていたので、指の動きをゲームのコントローラーを操作するように動かすとより複雑な動きができるようになったのは大きい。
前世でテレビゲームを知っていたため、意識しやすかったのが功を奏したようだ。
まだ二体以上別々に操ることはできないが、一体だけならそれなりに戦闘もこなすようになりました。
手に武器をつけてゴブリンと戦わせてみたら、勝てないでも結構善戦できた。
この調子なら野生のゴブリン相手なら簡単に倒すことも可能だろう。
ウルフ相手になるとスピードで負けそうなのでせいぜい囮がいいところかもしれないけど。
それでも人形にゴブリンの肉をくくりつけておけばいい囮になるだろう。
逃げる時間を稼ぐには十分なはずだ。
そろそろ帰らないと門が閉まってしまうので、今日のところはここまでにしておこう。




