商品を作ろう
皮なめしや鍛冶に関する説明がおかしいかもしれませんがスルーでお願いします。
ネット検索のにわか知識なもので……orz
さぁ、朝ですよー。
新しい朝が来た、寝坊の朝だ。
お日様はもう高く昇っているぞー。
朝っていうか昼ですね、うん。
昨日の模擬戦で精神的に疲れてたおかげでよく眠れたよ。
おかげで意識はすっきりしている。
さて、今日はアルマスに卸す武具のサンプルを作ろうと思う。
質を上げ過ぎないためにこちらで一般的な製法を用いる。
もっとも多少手は加えるけどね。
宿の表に出て効果弱めの方の隠蔽結界を張る。
誰も見ていないのを確認してグレイウルフを召還した。
とりあえずこのまま結界が正常に作用するか確かめてみよう。
街中では騎乗禁止なのでそのまま後ろをついてこさせる。
他の人の目には普通の馬に見えているはずだ。
もっとも、意識をそらす程度の効果しかないので凝視されたらばれるんですけどね。
今のところ騒ぎは起きていないので大丈夫だと思いたい。
結果から言えば何事もなく門を通過できました。
まさか街の中に魔物がいるはずがないという心理を突いた見事な作戦だった。(自画自賛)
門番の兵隊さんなんか前を通るときに「なかなかいい馬だな」なんて言ってたくらいだし。
一瞬ドキリとしたが何事もないように装って通り過ぎたよ。
・・・・・・ホントにばれてないよね?
あと門番さんはもう少し自分を疑った方がいいと思う。
まぁそのおかげで無事に門の外に出れたんだけどね。
門を抜けたらグレイウルフにまたがって森を目指します。
もうすでに森がホームグラウンドみたいになってるけど気にしたら負けだと思う。
まずは材料探しだ。
必要なのは皮なめし用のタンニン。
こいつは自然界の植物に普通に含まれてるありふれた物質だ。
もっとも質量に対して含有量が多いものとなると限られてくるけど。
しばらく森の中を探し回ると候補をいくつか見つけた。
その中で一番含有量が多かったのがこいつだ。
――――――――――――――――――――――――
<オークナッツ>
幹の太さの割に樹高の低いクルミの木。拳ほどの大きさの実をつける。
その見た目とオークが好んで食べることから名付けられた。
――――――――――――――――――――――――
枝先の一番高いところが6m位しかないくせに幹は樽よりも太い。
まさにずんぐりむっくりという表現が似合う。
こいつの樹皮には多量のタンニンが含まれている。
しかも実からとれる油はなめし後の油戻しに最適という至れり尽くせりの木だ。
唯一の問題は作業のために周辺のオークを殲滅しなければならないこと。
というわけで絶賛戦闘中です――ゴブリンが。
いやね、オークが食べるってことは当然他の動物や魔物だって食べるんですよ。
そうすると必然的に木の周りでなわばり争いが勃発するわけですよね。←いまココ
そんなわけでオークナッツの木を巡ってゴブリンとオークが争っている現場にたどりついてしまったカナタです。
これはもう漁夫の利を狙うしかないでしょう。
ゴブリンとオークを倒して木もいただく。
まさに一石三鳥。
というわけで行きなさい、わが下僕たちよ!
ゴブリン100体を召還して突撃させる。
新たな勢力の出現に木の周りは混沌の坩堝と化した。
殴られてどこかへ飛んでいくゴブリン。
尻を剣で刺されてうめくオーク。
尻を向けたやつに対して無差別でカンチョーを仕掛けるゴブリン。(うちのコです)
って最後の奴何やってんの!?
予想外に効いてるけど、もっとまじめに戦いなさい。
どうも最近召喚モンスターに個性が出てきている気がする。
戦略としての幅が広まったと受け取っておこう。
戦闘はこちらの圧倒的戦力によってわずか10分で決着がついた。
素材の剥ぎ取りはゴブリンたちに任せてオークナッツを刈り取ることにする。
グラインダーソードで木の根元を一周させるが、どうも芯まで届いてないようで倒れてくれません。
これ以上は刀身がとどかないので無理だ。
仕方がないので魔法でウォーターカッターを作って一閃することでようやく刈り取ることができた。
手の空いているゴブリンを呼んで皮むきの手伝いをさせる。
見た目にたがわず樹皮が分厚いので剥ぎ取るのも一苦労なのですよ。
まぁそのおかげで素材はたくさん取れるんですがね。
しばらくなめし用の素材は補充しなくて済みそうです。
樹皮を剥ぎ取るのに小一時間かかってしまった。
その成果として目の前に樹皮の小山があります。
今回使う分には多すぎるので少しだけ分けてあとはアイテムボックス行きだ。
樹皮をむかれた木の方も鍛冶用の燃料にするのでとっておく。
樹脂が多いのでよく燃えるのですよ。
残った方は土魔法で一抱えもある鉄の箱を作って放り込む。
ふたをしたら風魔法で撹拌しながら粉砕します。
粉々になったら八分目まで水を入れればひとまず完成。
あとは一晩おいておけばタンニンが染み出してなめし液が出来上がる。
アイテムボックスに入れると時間が止まってしまうのでこれはこのまま放置だね。
次はオークナッツの実から油をとろうと思う。
拳大ほどの殻を力任せに割ると、中からは乳白色のしわくちゃな身が出てくる。
ここらへんはこちらの世界のクルミも変わらないようです。
中身を取り出すのはゴブリンたちに任せておく。
取り出した実は一抱えもある鉄のバケツに入れさせる。
何せ結構大きな木だ。
実も相応に多かった。
ひたすら殻を割ってゴブリンに手渡しているとまるでクルミ割り人形になった気分だ。
いや、さすがに噛み砕くのは無理だけど。
こちらの作業は樹皮をはぐよりは早く終わった。
集ったそれはバケツごと火の上にくべて加熱します。
たまに撹拌して均等に火が通るようにする。
火といえばそろそろ暗くなってきたな~。
光の玉を出して周囲を照らす。
今日はまた野宿だな。
いや、なめし溶液を作ろうと思った時点でわかってたけどね。
そろそろ火が通ったかな?
火からバケツを下ろして実だけを包む結界を張る。
結界の種類は液体だけを通すようにしてある。
それを持ち上げてぎゅーっと圧縮すると、黄金色の液体が垂れてきました。
とめどなくあふれる油はどんどんバケツに溜まっていきます。
一抱えあった実がバスケボールくらいまで圧縮されてようやく流出が止まった。
さすがオークナッツ、実のほとんどが油だったようだ。
バケツにはなみなみと黄金色の液体が満たされている。
出がらしは一応非常食になるのでとっておこう。
カチカチだけどね。
油はこぼさないようにバケツの形を変形させてポリタンク型にした。
ちなみにこのオークナッツの油、食用油としてそこそこ高級品だったりする。
まぁ入手方法や流通量を思えばそうなるよね。
酸化してしまうともったいないのでアイテムボックスに詰め込んでおきます。
さて、本日の予定はすべて終了。
ちょっと早いけど寝ることにしよう。
ゴブリンズには護衛を頼んでおく。
あ、ついでだからオークナッツの薪割りもよろしくお願いしますね。
翌朝。
起きると枕元に何か置いてあった。
手に取ってみると彫刻が施された薪です。
それはもう見事な不動明王が彫られている。
誰だこんなことしたヤツ。
ゴブリンたちの方を見るとさっと目をそらされた。
『従魔の書』を開く。
――――――――――――――――――――――――
ゴブリンアーティスト
Ⅲ等級
芸術に目覚めたゴブリン。いたるところに落書きをする。
スキル
【絵画:1】【彫刻:1】【陶芸:1】【感受性増加:3】【天啓:1】
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
ゴブリンテンプラー
Ⅱ等級
悟りを啓くべく修行するゴブリンの僧侶。信仰の力で戦う。
スキル
【槍術:2】【棒術:2】【(火・水・土・風・光・闇)属性:3】【聖属性:2】【読経:2】【祝福:1】【瞑想:3】【彫刻:2】【身体強化:3】【天啓:2】
――――――――――――――――――――――――
お ま え ら か !
なかなか見事な明王様なのでお守りとして持っておきましょう。
起き抜けから出ばなをくじかれた感が半端ないけどまあいい。
そろそろなめし液が出来上がってるはずなので今日は皮なめしをします。
使うのはロックボアの皮。
これを石灰石の粉でごしごしとこすります。
そうすると毛が抜けてくるんです。
全部抜けるまでひたすらごしごしする。
あ、石灰石は土魔法で出して砕きましたよ。
便利ですねぇ~、土魔法。
終わったらしっかりと毛と石灰を払い落として昨日作ったなめし液へダイブ!
しっかりとしみ込むように揉み込みます。
しみこんだら軽く絞って風魔法で乾燥させる。
乾燥したらなめし液へ再びダイブ。
これを後2回続けます。
それが終わったら平らな所で麺棒みたいなのを使って引き伸ばします。
十分に伸びたら表面にオークナッツの油を軽く塗って完成!
なかなかいい出来ですね。
こっちの革は石灰脱毛せずにナイフで剃ってるだけなんで、さわるとじょりじょりするんですよ。
ロックボアの皮をあと5枚出してゴブリンたちに同じよう作業するように言いつけます。
次に召喚したのはゴブリンブラックスミス。
今回作るのはハーフメイルだ。
フルプレートより防御に劣るが、その分軽くて動きやすい。
作業の前にまず炉を作ります。
作るのは半魔力耐熱炉。
この世界の一般的な炉で、燃料と火の魔石の両方の力で加熱します。
まずは魔石の準備ですね。
ちょうどいい火魔石がないので人工魔石で代用します。
書き込むルーンは『常時』『発現』『火』と、『常時』『付与』『耐熱』。
これを土魔法で作った炉に組み込む。
そうして出来上がった炉にオークナッツの薪を入れて魔力を流すと炉に火が入った。
魔力を流すほどに温度がぐんぐん上がっていく。
今回使う材料は盗賊から奪った鉄の武具です。
必要な量をポイポイと炉の中に放り込んでいく。
時折石灰の粉を入れることも忘れない。
この世界の鉄の純度が低いのは精錬時に石灰石を使わないのが原因なので、石灰石を入れるだけで驚くほど純度が上がる。
そうして加熱した武具を叩いて伸ばした後、一気に冷水に突っ込む。
そうすると表面がぽろぽろと剥がれてくるんですよ。
これが不純物の塊です。
後に残ったきれいな鈍色の部分が純度の高くなった鉄だ。
そういえばこの時代に『水べし』の技術もないんですよ。
というか鍛造技術を受け継いでるのって一部のドワーフだけなんですよね。
一般的な鍛冶屋は質の悪い鉄を型に流し込んで固めるだけの鋳造しか知られていない。
鍛冶屋の技術は門外不出なので余計その傾向が強いのです。
ゴブリンたちにも手伝わせてどんどん質のいい鉄を量産する。
後はこれを叩いて伸ばしてくっつけて、鎧の形に形成していく。
そうやって作った部品を先ほどできた革でつないでいき、ようやく完成。
装飾もなくシンプルだけどその輝きはこの世界の鉄とは思えないほど美しい。
一般的に使われてる鉄はくすんで輝きがなかったり黒ずんでいたりするからね。
鑑定を使わずとも見ただけで良品とわかる逸品だ。
後は鎧に合わせた長剣や短剣など各種武器を打っていく。
鞘や柄などの拵えはマイナーエントの木材を使った。
アルマスにはこれらを基本にして卸すつもりだ。
商品のサンプルを作っていたらいつの間にか一日が過ぎていた。
時刻はすでに夕方だ。
集中していると時間が進むのって早いですよね~。
木々の隙間から差し込む西日に目を細めながら片づけをする。
まぁ片っ端からアイテムボックスに放り込んでくだけなんですがね。




