ランクア~ップ! パート2
翌朝。
開門とともにアルマスは自分の店へ馬をとりにかけていった。
その間俺たちは積み荷の見張りだ。
何をするでもなくボーっと待っているがどうにも手持無沙汰だ。
足元でバッタが跳ねているのを見ていたらつい実験の続きをしてみたくなったが、人目があるので我慢する。
しばらく待っていると馬を2頭連れたアルマスがやってきたので、馬車につないで出発する。
「一度兵舎に向かって武具を納品してきます。
それが終わったら商館の方で完了札をお渡ししますので、それまでお待ちいただけますか?」
ということだったので快諾した。
門を通るときに盗賊のカードを渡して換金してもらうと、1,440Gの収入になった。
昨日の盗賊襲撃と比べると微々たるものだがありがたくもらっておく。
ちなみに襲撃した盗賊のカードは回収せずに置いた。
わりと大きな盗賊団だったので懸賞金がかかっているかもしれないが、戦利品を商工会ギルドへの補償として徴収されるかもしれないからだ。
この件はそのまま闇へ葬ってしまうことにする。
兵舎での荷物の引き渡しは何の問題も起こらず、南大通りの中ほどにあるアルマスの商館へ到着した。
かけよってきた丁稚がカラの荷馬車を商館の裏へ引いていくのを横目に見送りながら建物を見上げる。
ギルドの建物もデカかったがこちらも負けず劣らずデカかった。
周りの商店がせいぜい二階建てなのにこちらは三階建て。
しかも横幅は小さめの体育館くらいある。
どこにでもいるような武器商人かと思っていたが、実はすごい人だったらしい。
そんな人がなんで行商の荷馬車に乗っていたのか聞いてみると、
「さすがに領主軍に納める武器ですからね、下手なものを引き渡すわけにはいかないので私自ら品質の確認に行った次第でして」
と返ってきた。
なるほど、その勤勉さとフットワークの軽さがあって今のアルマス商会があるわけか。
俺のイメージでは大店の店主は傲慢だったりするイメージがあったので妙に感心させられた。
同時にこの人になら武具を卸しても悪いようにはならないだろうと確信する。
アルマスに続いて商館に入ると、壁や棚にはずらりと武具が並んでいるのが見て取れる。
説明を聞くところによると、一階が一般用の数打ち品、二階が高級武具で三階が執務室兼商談室となっているそうだ。
アルマスが店の奥へ入ってしばらくすると、木の札をもってやってきた。
「これが依頼完了の札です。
どうもありがとうございました」
そう言ってパーティーリーダーのシェーナーに渡す。
「確かに受け取りました。
では、我々はこれで」
そう言って店を後にする。
俺も続いて出ようとしたが、アルマスから引き留められた。
「これはお礼としてはいささか少ないですが」
そう言って渡されたのは小銀貨が一枚(1,000G)。
森を抜けた隣町までの駅馬車が440Gなのを思うともらいすぎなくらいだ。
そのことを言って返そうとすると、「積み荷を無事に納品できたお礼」と言って受け取ってもらえなかった。
仕方なくアイテムボックスに納めると納得してもらえたようだ。
「それと契約の件ですが、準備のために5日ほどもらえますか?
そうすれば関係者を集められますので」
ということだったので了承した。
なくなった冒険者の遺産の分配の件があるので、アルマスのもとを辞して冒険者ギルドへと向かう。
ギルドにつくと、すでに二人が相談スペースで待っていたのでそちらへ行く。
「おう、遅かったな」
「待っていたぞ。
さて、遺産の分配をしよう。
私たちの取り分の合計は1,853Gだ。
一人当たり617G、2G余るがこれは助けてもらった礼としてカナタがもらってくれ」
席について早々そう切り出される。
どうやらすでに話はついていたようだ。
「いいのか?
仲間だったんならそちらで分けてもらってもいいが」
そういうと、「問題ない」と返された。
「今回偶然集まったメンバーだ。
なくなったうちの二人はパーティーを組んでいたらしいがな」
ということなのでもらっておくことにした。
「それでは、私はこれで」
そういうと、シェーナーはさっさと去って行ってしまった。
何ともさばさばしているが、冒険者ならこんなものだろう。
「それじゃあ俺もそろそろ行くな。
カナタのおかげで無事依頼を達成できたぜ。またな」
ナッシュもそう言い残して去っていく。
一人だけ残されたが、そろそろいい時間なので予定どうりランクアップ試験を受けることにする。
受け付けのお姉さんにカードを預けて試験場へ行くと、そこにいたのはガインだった。
相変わらず暑苦しい。
今は他の冒険者と模擬戦をしているようだ。
挑戦者の方を見るが、どうにも腰が入っていない。
手先だけで剣を振っているためことごとくが受け止められている。
よくあんなんでホーンラビットとかと戦えたな。
そう思ってみていると、どうやら決着がついたようだ。
結果は挑戦者が武器を飛ばされて敗北。
不合格になったようだ。
不合格になるともう一度同じ数の依頼達成数が必要になる。
挑戦した冒険者は肩をがっくりと落として帰っていった。
他に挑戦者はいないようなので俺の番になる。
「よし、次はお前だ」
まるで準備運動にもならないというように肩を回しながら言うガイン。
「どうも、Dランク希望のカナタです。
よろしくお願いします」
そういうと、ガインは「ん?」と首をひねった。
「カナタっつーとあの時ののカナタか?」
「その節は、お世話になりました」
そう言ってお辞儀をする。
バイザーを跳ね上げると思い出してくれたようだ。
「おぉ!
またずいぶんといい装備になったじゃねぇか!」
「まぁ、こっちも命がかかってますんで」
「設けているようで結構結構!」
「はっはっはー」と笑うガインにおどけたように返すと上機嫌になった。
「しかし! そんな重そうな鎧が実戦で通用すると思うなよ!」
すんません、見た目よりずっと軽いんです。
木剣を構えてこちらに向けてくるガインに、壁に掛けてあった木剣をとって対峙する。
「お前の実力はすでに知っている。
よってDランクは合格としておこう」
そう言いながらも構えは解かない。
めっちゃやる気満々ですやん。
「しかーし!
条件として模擬戦には付き合ってもらう!」
そういうが早いか、一気に突っ込んできた。
それを木剣でいなし、カウンターを叩きこむ。
だがそれはあらかじめ見切られていたのか、飛ぶように避けられる。
鎧の能力が合わさった今なら追撃が可能だが、あえてそれはしない。
代わりに鎧のパーツを鳴らしながら構えをとる。
互いににらみ合い、隙を探る。
先に動いたのはこちらだ。
正眼からの袈裟懸け。
それにとどまらず、鎧の力で強引に剣先を跳ね上げて逆袈裟。
剣術でいうところの『燕返し』を披露する。
一撃目はいなしたが二撃目は避けきれず、体で受けるガイン。
それでもまともに受けることはせず、後ろに飛ぶことで威力を逃がしたようだ。
「ッ――なんだ、その剣は!」
どうやら驚いてもらえたようだ。
「秘剣『燕返し』」
ちょっと得意になって技名を披露する。
「ほう、それがその技の名前か。
だが、二度も通用すると思うなよ」
そう言ってにやりと口元を釣り上げる。
やだこの人、マジになってる。
真剣と書いてマジだ。
まるで切り殺さんばかりに目が爛々と輝いている。
というか木剣のくせに変なオーラみたいなの纏ってます。
絶対当たったらヤバイってこれ。
「あの~。
そろそろやめにしません?」
「なぜだ? ようやく楽しくなってきたところだというのに」
こちらの提案はすげなく却下されてしまった。
ホントどこの戦闘民族ですかあーた。
やたら楽しそうにしおってからに。
ちょっと胃のあたりがキリキリ痛くなってきたカナタです。
仕方なく構えをとると満足そうに頷くガイン。
互いに構えをとったまま刻一刻と時間が過ぎる。
初めに動いたのはガインだった。
「ウオオオォォォ―――!!」
身を縮めながらの恐ろしく重心の低い踏み込み。
そこから一気に伸びあがって大上段からの一撃がきた。
スピードはあるが大ぶりなためこれを下がって躱す。
いや、躱そうとして吹き飛ばされた。
ゴロゴロと転がってようやく止まる。
確かに躱したはずだ。
それなのに木剣より明らかに間合いを越えた一撃を受けた。
その証拠に通常の攻撃では傷一つつかないはずの鎧にコゲ跡がついている。
「こいつは『剣気』ってんだ。
身体強化の延長で剣まで魔力で覆う。
そいつを飛ばしたり鞭みたいに伸ばすのがこの技だ。
上級冒険者には必須の技だから覚えておくといい」
謎の攻撃に混乱していると、ガインが得意げに答えを教えてくれた。
なるほど、『剣気』か。
覚えておこう。
でもあーた、模擬戦にちょっと本気になりすぎじゃありません?
非難の視線で見つめるが、どこ吹く風と受け流されてしまう。
まぁバイザーのせいで目は見えないんですがね。
雰囲気で察してほしい。
「それよりもほら、さっさと続きだ。
まだ立てるんだろ」
そう言って続きを促してくる始末だ。
まぁなんだ、確かにダメージはないけどそろそろ模擬戦の域を出そうなことに気付いてほしいんですが。
周囲に味方はいないものかと視線をめぐらすが、さりげなく視線をそらされてしまった。
味方はいない。
ジーザス。
あぁ、神は何故にこの試練を我に与えたもうたか。
あ、神じゃなくて管理者だった。
うん、それなら仕方ないな。
そのあとはひたすらボコられた。
なんて言うかもうサンドバッグ状態?
剣気以外にも謎攻撃のオンパレードだった。
ひたすら「疾い」「重い」「見えない」の3拍子揃った攻撃で蹂躙され続けた。
ホント何者だあの人。
Cランクとか絶対嘘だと思う。
終始ホクホク顔で打たれ続けるとかどんな拷問ですか?
おかげで頑丈さだけはお墨付きがもらえたけど。
心なしかガインの肌艶が良くなっているのは気のせいだと思いたい。
訓練場で訓練していた冒険者達からはまるで勇者を見るような目で見られた。
そりゃまぁあの尋常じゃない攻撃を耐えきったからね。
おかげで体は【超回復】でピンピンしてるのに精神はボロボロだ。
もう帰って休みたい。
あ、ランクアップは合格にしてもらえたよ。
というわけで逃げるように受付へやってきた。
事情を知っているのかお姉さんが気の毒そうな顔で見つめてくる。
カードを受け取るとちゃんとDランクになっていた。
今日はもう依頼書を見る元気がないので宿に帰ります。
というわけでギルドを出て『小枝の小鳥亭』へ向かった。




