23.星の導き
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「……ああ、星よ…答えて頂戴……」
一人の女が、祭壇に跪いていた。
上衣を被っているせいでその顔は見えない。
教会のような場所だった。白い大理石には、火の灯った蝋燭が何本も並んでいた。揺らめいた炎が立ち上って、不気味な影を落とす。
その祭壇の中央に埋め込まれていた石像は、白い女神の裸体を彫り出したものだった。
滑らかな長髪は静かに広がっていた。伏せられた睫毛のその一筋でさえ零さぬようにと彫られたのだろうか、あまりに精巧で美しいその女神像に、炎の光が淡く反射した。
「星よ… 」
女は少女を抱いていた。
淡い金髪が女の胸元から零れ落ちた。少女の色白のかんばせは、まるで人形のように生気がなかった。
「 …どうか…この子を王にして…!!」
女の被っていた上衣が零れ落ち、焦点の合わない薄紅の瞳が顕になる。
女は躊躇いなく小刀を取り出すと、思いっきり自身の腕にそれを引いた。真っ赤な線が鋭く走り、吹き出すように血が伝った。
痛みすら感じた様子もなく、女は歓喜したように震える。
「 ああ…っ……!!あぁ!!!女神様っ……!!!」
ぽたぽたと落ちた血が、少女の頬を濡らしていく。青白い鼻筋を通り、そのまま血の気の失せたくちびるを染めていく。まるで、化粧をするみたいに。
「 …っああ!!!王に、王になるのよ!お前は…っ…お前は、お母様の希望なのだから……!!!」
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春の光が綻びだした頃。
「 ……茶会?」
アンリエッタが恐縮しつつ伝えてきた知らせに、ラーレシアは思わず背後のアレスタントを見上げてしまう。
「はい、その…エーレンフェストの貴族の女性方が姫さまを歓迎して〈豊穣の祈誓〉と合わせて茶会を開きたいと…」
「 〈 豊穣の祈誓〉…」
〈 豊穣の祈誓〉といえば、エーレンフェストで行われる春を寿ぐ式典であり、庶民たちにも馴染み深い祭りであると聞いている。
茶会、と聞いて思い出すのは、リュクラシアでの謀略ばかりの茶会とは呼べない代物ばかりだ。暇をしたテティリーヌの享楽として行われる悪趣味な虐めまがいの行いは、ほとんど日常茶飯時と言っても過言ではなかった。
ラーレシアの表情が曇ったからだろうか。アンリエッタはすぐに膝を屈めると、ラーレシアを覗くような体勢になる。
「 姫さま。お嫌でしたら、アンリエッタが断ってまいります。私は姫さまのご意思を尊重したいのです」
「 …アンリエッタ……」
「 それか、茶会の前に私が色々調べて参りましょうか?」
「いえ、いいのよ、アンリエッタ。わたくし、参加するわ」
誘われているのに、行かないなど失礼であるしーーそれに、親身になってくれるアンリエッタにこれ以上心配などかけたくなかった。
「… 姫」
「 ……?」
アレスタントも静かにこちらに目線を合わせるように膝をついた。
「 ご心配なら、私が茶会についていきましょう。もちろん、アンリエッタも」
「 ええ、そうしましょう!」
アンリエッタも嬉しそうに同意する。
「 …誰にも、貴女を傷つけさせない」
「 ……もう…」
あまりの過保護さと恥ずかしさに、視線を泳がせてしまう。
「……アレス、アンリエッタ…ありがとう… 」
そういえば、二人が静かに笑った気配がした。
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