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見上げるだけの天文部  作者: こおりがし


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第21話 鬼の監査と、いざ文化祭本番!

第21話 鬼の監査と、いざ文化祭本番!

文化祭前日の夕方。

 薄暗い天文部の部室に、生徒会会計・佐条ユキノ(2年)の深い、深いため息が響き渡った。


「夏目先輩。その頭から被っているシーツは、お化け屋敷のクラスから強奪してきたんですか」


ユキノは部屋の奥で胡散臭く鎮座するみどり部長(3年)を見て、こめかみを指で揉んだ。

 以前のような氷点下の冷たさはないが、純粋に「理解不能なものを見て頭痛を堪えている」という疲労感が滲み出ている。


「人聞きの悪いこと言わないでよぉ、ユキノちゃん。これは宇宙の真理を伝えるための、神聖な星空のローブだよぉ」


「、、、そうですか。布の端に『三年二組・備品』とマジックで書かれていますが、見なかったことにしておきます」


「ぶ、部長!?」


あかりが目を剥いてツッコミを入れた。


「それ、お化け屋敷をやるクラスの備品ですよね!?まさか本当にパクってきたんですか!?」


「だから人聞きの悪いこと言わないでよぉ、あかりちゃん。ちゃんとお化け屋敷の実行委員たちと『等価交換』の交渉をしてきたんだからぁ」


みどりはシーツを被ったまま、悪びれもせずにふんわりと笑う。


「等価交換?予算ゼロなのに、何と交換したんですか?」


キキが首を傾げると、みどりは自慢げに胸を張った。


「ふふふ。あの『宇宙パワー隕石』が入ってた、ありがた〜い空き箱だよぉ。『これをお化け屋敷の入り口に置けば、本物の悪霊を退散させる結界になるよ』って言ったら、みんな『マジか!すげえ!』って大喜びでシーツを譲ってくれたんだぁ」


「、、、三年二組の実行委員、アホしかいないのか。ただの中国製の段ボール箱だぞ」


窓際のあおいが、心の底から呆れたように呟いた。


「違いますよあおい先輩!絶対『ヤバい先輩が変な箱を押し付けてきたから、とりあえずシーツ渡して早く帰ってもらおう』って厄介払いされただけですよ!」


あかりが頭を抱えながら生徒会会計にすがりつくと、ユキノは今日一番の深いため息をつきこめかみを強く揉んだ。


「、、、双方の合意に基づく物々交換トレードであれば、生徒会が介入する横領には当たりません。無罪です。ですが、三年二組の絶望的な知能指数については、後で深刻な議題として生徒会に報告しておきます」


ユキノは疲れたように視線をずらし、今度は部屋の中央で光を放つモニターの前に立った。

 画面にはあおいが撮影した『猫のあくびのドアップ』と、そこに添えられた『大質量ブラックホールの産声〜事象の地平線を越えて〜』という痛々しいポエムが映し出されている。


「、、、深月さん」


「、、、なんだ」


あおいは窓際で腕を組み、不必要にカッコつけたポーズで目を逸らした。


「これをタイピングしている時、少しでも躊躇いや、羞恥心というものはなかったんですか」


「、、、ない。これは芸術アートだ。被写体の本質を、私なりに宇宙的スケールで再解釈した結果にすぎない」


「、、、痛々しいのでやめてください。同級生として、見ているこちらが辛くなります。胸がざわつきます」


ユキノは本気で気の毒そうな顔をした。あおいの肩がビクッと揺れ、「、、、くっ」と小さく呻いてさらに顔を背けた。同級生からの『純粋な哀れみ』は、どんな鋭いツッコミよりもダメージが大きいらしい。


一通り部室のカオスな状況を確認したユキノは、バインダーを開き小日向あかりと星野キキに向き直った。


「それで。。。ハーブティーの茶葉や紙コップは?」


「あ、全部私たちが家から持ってきた余り物です!なので原価はタダです!」


キキが胸を張って答える。あかりも隣で小さく頷いた。


「、、、段ボールも、スーパーでもらってきた廃材ですね。機材も個人の持ち物と学校の備品のみ」


ユキノはバインダーにペンを走らせ、小さく息を吐いた。


「呆れました。まさか本当に予算ゼロで、ここまで『それなりの形』にしてくるとは」


「えへへ、、、それほどでも!」


「褒めていません!ギリギリの自転車操業だと言っているんです、、、」


キキの能天気な笑顔をピシャリと制しつつも、ユキノはバインダーをパタンと閉じた。

 そして眼鏡の奥の目を少しだけ和らげ、真っ直ぐに四人を見据えた。


「ですが、生徒会の規定に違反している箇所はありません。知恵と工夫で予算不足を補おうとした姿勢は、評価に値します。特別に、この『天体写真展および星空相談所』を、天文部の正式な文化祭企画として承認します」


「「「やったーーーっ!!」」」


キキとあかりが手を取って飛び跳ね、みどりがシーツの中で拍手をする。


「ただし...!!」


ユキノが釘を刺すように人差し指を立てた。


「前回も言いましたが、承認されただけでは意味がありません。この企画で全校生徒を納得させる『活動実績』と自力での『資金調達』ができなければ、次年度は容赦なく廃部です。。。健闘を祈ります」


ユキノはそれだけ言うと、来た時よりも少しだけ軽い足取りで部室を去っていった。

 残された四人は、顔を見合わせてニヤリと笑った。

 最大の関門であった「鬼の監査」は見事に突破したのだ。


――そして翌日。

 雲ひとつない秋晴れの下、いよいよ文化祭本番の幕が上がった。


「いらっしゃいませー!天文部の『星屑の展示&相談所』へようこそ!今なら美味しい星屑ティーが無料ですよー!」


廊下に響き渡るキキの元気な客引きの声。

 最初は「なんだこれ?」と遠巻きに見ていた生徒たちも、『無料』という言葉とエプロン姿のキキの愛嬌に釣られて、一人、また一人と暗幕の引かれた部室へと吸い込まれていく。


「えっ、何この写真。めっちゃ綺麗だけど、、、猫?」

「待って、作品説明見て!ウケる。『大質量ブラックホールの産声』だって!」

「やばっ、こっちの肉球のドアップは『火星の表面』になってる!書いたやつ絶対厨二病だろ!」


あかりの狙い通り、あおいの『猫写真×厨二病ポエム』の展示は、生徒たちの間で妙なツボに入り、「なんかヤバい展示がある」と口コミで広がり始めた。

 モニターの裏で隠れているあおいは自分のポエムが笑われるたびに「、、、くっ、、、俗物どもめ」と顔を赤くして震えていたが、集客効果は抜群だった。


さらに、部屋の奥の『お悩み相談所』も異様な熱気を帯びていた。


「、、、なるほどぉ。彼氏から連絡が来なくて不安なんだねぇ」


シーツを被ったみどり部長が、偽隕石をナデナデしながら深刻な顔をした女子生徒の話を聞いている。


「でも大丈夫だよぉ。この『宇宙コスモの石』が言ってるよぉ。。。今は『水星の逆行』が起きてるから、通信トラブルが起きやすい時期なんだってぇ。だから焦らずにもう少し待ってみるといいよぉ」


「す、水星の逆行...!!そうだったんですね!ありがとうございます、占い師さん!」


女子生徒はパッと表情を明るくして、深々と頭を下げた。

 、、、もちろん、水星の逆行などというものはみどりの完全な思いつき(ハッタリ)であり、ただのコールドリーディングである。しかし、みどりの生来の「ふわふわした包容力」と「薄暗い空間」の相乗効果で、なぜか驚異的な満足度を叩き出していた。


「キキ、お茶のおかわりお願い!ポットのお湯が切れそう!」


「了解あかりん!すぐ持っていく!」


あかりとキキは、息つく暇もなくハーブティーを淹れ、お客さんを案内し続けた。

 大盛況の部室。

 しかし、忘れてはいけない。お茶も展示も占いも、すべて『無料』なのだ。このままでは活動実績にはなっても、資金調達(黒字化)の条件はクリアできない。


「、、、ふふふ。あかりん、心配ご無用だよ」


お湯を注ぎながら、キキが悪戯っぽく笑い、入り口に設置した段ボール箱を指差した。

 そこには、達筆な筆文字でこう書かれていた。


『宇宙の真理に触れ、心が浄化された方は、こちらへ「お気持ち(寄付)」をお願いします』


「名付けて、お賽銭箱システム! 無料で楽しませておいて、最後に良心に訴えかける高度な心理戦だよ!」


「キキ、、、なんてあこぎな、、、」


あかりがドン引きしている横で、占いでスッキリした女子生徒や厨二病ポエムで爆笑した生徒たちが帰り際に、


「面白かったからお布施しとくわ」


「水星の逆行代です!」


チャリン、チャリンと小銭を入れていく。


残高3円のどん底から始まった、天文部の文化祭。

 泥臭く、あこぎで、少しだけ厨二病な彼女たちの「錬金術」は、確かに部室に小さな奇跡(小銭の雨)を降らせていたのだった。

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