第74話 渡航
「旅行に行かれるんですか」
「ええ、なんか流れでそうなっちゃいまして……それで、ちょっとお尋ねしたいことがありまして」
「なんでしょう」
「その……旅行先を海外にしようかと思ってまして」
「いいですね」
「ただ、海外に行くってなると、入国審査とかどうなってるのかが気になるんです」
「ああ、そのことでしたら気になさらないでください」
「パスポートを取得していなかったりしても大丈夫でしょうか」
「こちらの世界にいる限りは問題ありません。現地であっちの世界に寄ってみようとお考えですか?」
「いえ、そういうことは全くありません」
「なら平気です。普段通りにしていてください」
「ゴミとかは持ち帰った方が良いでしょうか」
「そうですね――現地での出し方に不安がありましたら、持ち帰ってきてから捨ててくださる方が安心でしょう。ただ――海外旅行をするにあたって、こちらから機体の貸し出しをするのではないでしょうか」
「ええ、そんなことを言っていました。なんでも車を収納できる機体があるとかで」
「それでしたら、その機体にゴミを捨てるスペースがありますから、旅行中のゴミは全部そこに捨ててしまえばよろしいでしょう。こちらとしても、その方が手間が省けます」
「分別の仕方とかは似たようなものですか?」
「そうですね。なんでしたら、そこの収集所の見た目と同じような雰囲気にしておきますよ」
「……ありがとうございます」
「あなたがキチンと分別をしてくださるのであれば、こちらとしても大助かりですからね。協力は惜しみませんよ」
「そうですか……そういうことでしたら分別についてはお任せください」
「ふふ、お願いします――それにしても旅行ですか、羨ましいです」
「ゴールデンウィークのご予定とかは?」
「そんなのありませんよ。年中無休です」
「! ……みなさんそうなんですか?」
「ええまあ。特に虐げられているわけではないので、お気になさらず」
なんとなく偉い人の方をチラ見したら、なんかウンウン頷いている……
「息抜きとか全く無しで、お疲れになったりしないんですか?」
「そういう体のつくりをしていれば、有給休暇なども合わせて取得していたのでしょうかね」
「そうですか……」
「ああ、海外に行くということでしたら、一つお伝えしておいた方が良い事があります」
「えっ? なんでしょうか?」
「普段、街中にいる時にはあまり気にならないと思いますけれども、基本的にこの世界は自然が支配しているんです」
「自然、ですか」
「ええ、それで特に海外の未開拓の土地とか広い洋上に出てしまいますと、誰の助けも得られない状態になってしまいます」
「あ、そうか。ただでさえ、そういうところは人気が無いですもんね」
「そうですね。なので、なにかトラブルが生じましたら、ご遠慮なく我々に助けを求めてください」
「ええと、どうすれば?」
「貸し出す機体にホットラインが設置されています。万が一にも機体が損傷するなどして通信ができなくなると、我々でその事態を把握できるようになっていますから、誰かが様子を見に行くことになります」
「心強いです。安心して旅ができます」
「まあ、どんな事態に陥ってしまってもレスキューは出来ますので、その点はご安心ください」
「そうですか……」
なんとなく偉い人の方をチラ見したら、なんか目をそらされた気がした……
「それでは、今日はこんなところで」
「また来週お会いしましょう」
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