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第56話 新生活

 ピーッ、ピーッ、と音がする。いつもの収集車が、いつも通りにペットボトルを回収しに来たのだろう――気持ちのいい朝だ。


「おはよう世界!」


 年が明けてちょっとしてから、私の身の回りでいろいろ可笑しなことがあったものの、それらもようやく一区切りがついた。春という新しい命が芽生える季節、四月という新しい生活がスタートする月、その最初の営業日を迎えるにあたって、私も新たな気持ちをもって、いつもの日課に励むとしよう!




「今日のお仕事はこれでおしまい! おつかれさまでした!」


 さーて、お風呂にしようか、ご飯が先かな、そ・れ・と・もー?


「散歩だね」




 ……ここらへんでいいかな。かなり緊張してきた。鎌を持つ手が震え、滲んだ汗が鎌を伝う。滑って落としたら危ないから、いったん態勢を取り直そう。いくらなんでも緊張しすぎだ。そんなにあの世界に戻るのが嫌か?


「一度は試しておかないと。いざって時に何の準備も覚悟もありませんでした、なんてのは許されないだろう?」


 それでは覚悟を決めて、教えられたとおりに、鎌を振り上げ――下ろす!


「おおお……なんだか映画のワンシーンみたいだ……」


 うすーくなにかが裂けたような痕が空間にでき、その先には全く同じ光景が重なっている。だが何か――鼻につくな。気にせず行こう。鎌は背中に回して――うん。なんだかよくわからないけど収納されたようだ。重さも感じないとはこれ如何に。気にしてはいけないのだろう。


 ……くぐり抜けた先は地獄だった。うるさい。なんだか臭う。表通りに出ると、人がわんさかいる。人ってこんなに密集しているものだっけ? なんかマスクをしていない人が目につくし……あ、そういう流れになっているんだったっけ? ニュースで見ていたものの、全くの他人事として認識していたから実感が無かった……こういうことなのか。


 もう充分だ。これ以上ここにいる必要はない。私はもうこの世界には戻れないのだということが、ハッキリと実感できた。ただ、アレルギー反応が出ているわけではないようだ。あの世界を知らなければ、ここまで拒否することは無かった、ただそれだけなのかもしれない。


「帰れなかったらどうしよう……」


 人気のないところまで撤退し、不安を押し殺しながら鎌を取り出し、振るう――二度目の動作は滞りなく、一連の流れをスムーズにできた。さっさとくぐり抜けよう。


「こんなヘタレで、ちゃんと仕事ができるのかな……」


 くぐり抜けたとたんに自動で裂け目は閉じるようだ。どこまでも理想的にできている。とりあえず、私は何も心配する必要が無いのだろう。いざという時の緊急連絡手段も手に入れている。いきなり戦闘不能になってもリスポーンできるとのことだ。ちょっと何を言っているのかわからない。


「心配なのは私自身、そういうことだな」


 まあ、ゆっくりやっていこう。勤務条件は整っているから、問題は無いはずだ。




 ん、アイツは……よーし。


「ただいまー!」


 さーて、お風呂にしようか、ご飯が先かな、そ・れ・と・もー?


「ボクっすか!?」

「……なにしてんの?」

「お届け物っす! 不在みたいだったからDMでも投げようかと思ってたら、いきなり声をかけられたからビックリしたっすよ」

「いやだって、家の近くに誰かいるなんで思わないじゃん」

「まぁそうっすけど、って、なにニヤニヤしてるんすか?」

「なんでもないよー」




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